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第八章・13
「手作りか?」
「……一応」
あんなに美味しいザッハトルテを食べた後なのだ。
惠は、自信を失っていた。
しかし、箱を開けた瑛一は、にっこり笑った。
ハートの形をした一粒チョコが、いくつもいくつも並んでいたのだ。
「食べてもいいか」
「いいよ」
口の中に放り込んだチョコは、ほろ苦いビターだった。
甘いものはあまり食べない瑛一を思って、選んだのだろう。
(ああもう! 湯煎で溶かして、型に流しただけのチョコなんて作るんじゃなかった!)
敵が見事なケーキを作ると知っていれば、もう少し凝ったものに挑戦しただろうに!
「美味い」
「兄さん?」
瑛一は、顔を上げて微笑んだ。
「俺が甘いものは苦手だと知ってて、苦いチョコにしてくれたんだな」
「う、うん」
さすがは惠だ、と瑛一は嬉しそうだ。
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