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第九章 僕たち、幸せになります!
「手作りには手作りを、と思いまして」
3月14日のホワイトデーに、瑛一は鎌田のお嬢様にクッキーの詰まった箱を渡していた。
「あ、ありがとうございます!」
「お腹が痛くなったら、すみません」
開けるとそこには、初心者でも失敗の少ないアイスボックスクッキーが並んでいた。
「素敵です」
「どうも」
瑛一が鎌田に好意を寄せていると同じように、彼女もまた瑛一に好印象を持っていた。
彼が他にも良家の令嬢と会っているだろうな、と気づいていながら、だ。
日本有数の資産家、藤堂財団。
その御曹司が将来のパートナーを決めるのに、自分一人に絞っているはずがないのだ。
カフェでコーヒーを飲む瑛一を眺めながら、鎌田は紅茶を飲んでいた。
(瑛一さんは、本当に素敵な方。でも……)
そこまで考えた時、瑛一が鎌田に少し身を乗り出した。
「茉莉(まつり)さん、実はあなた以外にも婚約者候補が三人います」
は、と茉莉はカップを置いた。
不誠実なことをして、申し訳ありません、と瑛一は詫びた。
その上で、しかし、と続けた。
「こうしてお会いし始めて、もう二ヶ月近く経ちます。その中で、私は茉莉さん、あなたと正式にお付き合いしたいと……」
「待ってください!」
普段のおっとりとした所作からは考えられないほど、素早く茉莉は手のひらを瑛一に伸ばした。
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