150 / 163
第九章・3
「でも、どうしてそんなに表情が暗いの?」
「ああ、それはな」
茉莉に、一対一でお付き合いして欲しい、と願い出た瑛一。
だが、予想外のリアクションが彼女から返ってきた。
「その前に、お前に会いたい、と言うんだ。惠」
「僕に?」
「正確には、俺とお前と三人で、だ」
なぜだろう。
「瑛一さん、何か心当たりある?」
「いや、全く」
女性というものは、時折こんな風に理解不能の要求を出してくるのかな、などと、その場は終わった。
今度の日曜日に、惠は瑛一と一緒に、茉莉に会う約束をしていた。
瑛一の去った自分の部屋で、惠は鏡を見た。
複雑な、表情。
「僕は瑛一さんを愛してる。瑛一さんも、僕を愛してくれてる」
その中に、割って入ろうとする鎌田 茉莉は、惠にとって忌むべき存在のはずだ。
「だけど、なぜか憎めない人なんだよなぁ」
以前、瑛一が見せてくれた彼女の写真。
タヌキみたい、と惠はその時言ったが、いい意味で愛嬌があるのだ。
「その上、気配り上手。良家の令嬢。はぁ……」
僕、勝ち目があるのかな。
不安な心地で、惠は日々を過ごした。
ともだちにシェアしよう!