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第九章・6
「いや、そこは兄弟ですから。遊園地で一緒に楽しむのも、他人とは違って……」
「そういうことではなくて。実はわたくし、見てしまったのです」
何とか話を逸らそうとする瑛一に、茉莉は真剣なまなざしを向けている。
見た、とは。
茉莉さんは、一体何を?
「晩餐会の夜、お二人がバルコニーで、その。キスしてらした、ところを」
見てしまったのです、と茉莉は頬を染めてうつむいた。
瑛一も惠も、固まってしまった。
確かにあの時、キスをした。
降って湧いた、お見合いパーティー。
瑛一も惠も、その事実に心が冷えていた。
ただ、こうしていつまでも愛し合っていたいのに、それは叶わない。
そう悟った時、キスをしていた。
未来も将来も考えずに、その場にとどまり二人だけの愛に浸った。
「茉莉さん、そのことを誰かに話しましたか?」
「いいえ。秘密にしております」
さすがに大人である瑛一は、立ち直りが早かった。
後は、この御令嬢にどうやって口封じを施すか、だが……。
しかし、茉莉の意見は想像をはるかに超えたものだった。
「わたくし、お二人を微力ながら応援したいと考えておりますの!」
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