154 / 163

第九章・7

 惠は、目の前のタヌキさんを、今までで一番真剣に見ていた。 「応援、って。どうやってですか?」 「これには、惠さんの同意と信頼が絶対に必要となりますけれど」  まずは、わたくしと瑛一さんが結婚いたします、と茉莉は語った。  瑛一が、自分以外の人間と結ばれる。  これは、惠にとっては耐えがたい苦難だ。  しかし、と茉莉は続けた。 「一度わたくしが藤堂の家に入ってしまえば、世間は全く油断して夫婦と認めることでしょう。そこに隙が生まれます」 「隙?」 「そうです、惠さん。そうなってしまえば、惠さんがいくら瑛一さんと仲良くしようと、それは兄弟の範疇。二人が愛し合っているとは、思われません」  それはつまり、と瑛一が声を吐き出した。 「偽装結婚、ですか」 「お二人が愛し合い続けるには、これしか方法はない、とわたくしは考えます」  タヌキ顔の茉莉が、この時ばかりはひどく引き締まった顔つきをしていた。

ともだちにシェアしよう!