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第九章・7
惠は、目の前のタヌキさんを、今までで一番真剣に見ていた。
「応援、って。どうやってですか?」
「これには、惠さんの同意と信頼が絶対に必要となりますけれど」
まずは、わたくしと瑛一さんが結婚いたします、と茉莉は語った。
瑛一が、自分以外の人間と結ばれる。
これは、惠にとっては耐えがたい苦難だ。
しかし、と茉莉は続けた。
「一度わたくしが藤堂の家に入ってしまえば、世間は全く油断して夫婦と認めることでしょう。そこに隙が生まれます」
「隙?」
「そうです、惠さん。そうなってしまえば、惠さんがいくら瑛一さんと仲良くしようと、それは兄弟の範疇。二人が愛し合っているとは、思われません」
それはつまり、と瑛一が声を吐き出した。
「偽装結婚、ですか」
「お二人が愛し合い続けるには、これしか方法はない、とわたくしは考えます」
タヌキ顔の茉莉が、この時ばかりはひどく引き締まった顔つきをしていた。
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