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第九章・9
「いかがでしょうか。わたくしの提案は」
ゴンドラから降り、茉莉は柔和な笑みを瑛一に向けた。
「願ってもない、申し出です」
「惠さんは?」
「茉莉さんが、それでいいのなら」
決まりですね、と茉莉は両手をパチンと鳴らした。
「瑛一さん、しばらく時を置いてから、わたくしと婚約していただけますか?」
「父と相談して、吉日を選びますよ」
「惠さん、二人は便宜上結婚することになりますが、同意していただけますか?」
「まだ気持ちの整理がつきませんが、大丈夫です」
ああ、と茉莉は青空を仰いだ。
わたくしの代わりに、こうして許されない恋が成就する。
爽快だわ。
愉快だわ。
これ以上の喜びは、無いわ!
「瑛一さん!」
「は、はい!」
「わたくし、お腹がすいてしまいました。お茶にいたしませんか?」
「賛成!」
やはり元気な惠の声に、瑛一も茉莉も笑顔になった。
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