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第九章・10

 デートを終え、三人だけの秘密を抱えて瑛一と惠は帰宅した。 「茉莉さん、哀しい人だったんだね」 「そうだな」  偽装結婚の約束を交わしたとはいえ、これで全てが終わったわけではない。  本当に瑛一と茉莉が結婚するまでは、気の抜けない日々が続くのだ。 「茉莉さんを礎にして、僕たちが幸せになってもいいのかな?」 「良いとも言えないし、良くないとも言えない。ただ」 「ただ?」 「今の彼女は、俺たちを応援することで心の平穏を保ってるんだ。それだけは、確かだ」  だから今は、お言葉に甘えておこう。  そう言って瑛一は、惠の腰に手を回した。 「実るかな、俺たちの恋は」 「実らせようよ。ここまで来たら」  二人で、優しい柔らかなキスをした。  二人ぼっちだった、孤独な恋。  そこに、茉莉という強力な援軍が現れた。  自然と開放的な気持ちになった瑛一と惠は、そのまま寝室へ向かった。

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