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第5話

 終業式が近付いている。僕と長谷川は図書室で、外暑そうだなーなんていいながら毎日昼休みを過ごしていた。 「雪は夏休みなにすんの?」 「勉強、かな」 「まじかあ」  長谷川が椅子の背もたれからずるりと落ちていき、天井を見上げた。 「まあ受験生だし。長谷川は?」 「俺は毎日部活だよ」 「そっか」  長谷川はすこし緊張気味に顔をかたくしていた。 「夏に大会があって、最後だしちょっと気合い入れて頑張りたいんだよな」  僕は静かに長谷川が走る姿を思い出していた。今までだって何度も何度も頭の中で再生してきた。 「大変だな、部活も勉強もあるのは」 「だからこうやって雪に教えてもらってんじゃん」  長谷川の長い指が器用にシャーペンをまわす。強張っていたはずの顔がもうほどかれていた。彼の仕草のひとつひとつ見逃したくないなと思う。だけど時間は流れて、当然だけど僕のしらない時間があって、それでも長谷川の生きる時間を掴みたくて、でもどれだけ手を伸ばしても、隙間からこぼれていく。だからこそ手のなかに残った時間は大切にしたいと思う。長谷川が僕にくれた時間を。 「藤原君、ごめん、ルーズリーフ一枚もらえない?」  教室に戻り、次の授業の準備をしていると隣の席の遠藤さんが声をかけてきた。遠藤さんはバスケ部で僕と身長がさほど変わらなくて、もうすぐ引退だからショートカットの髪を春から伸ばしているのだと、席替えで隣の席になった瞬間に話してきた。僕はどうしていいのか分からなくて、ふうんとだけ答えた気がする。 「いいよ」 「ありがとー。助かる。今度ジュース買ってくるよ」 「いいよ、そんな、大袈裟だよ」  僕が笑って答えると、遠藤さんは大きな目でじっと僕を見た。 「藤原君さ、最近長谷川と仲いいよね。だからかな。相乗効果的なやつかな。あってるのかな、この使い方。わかんないけど。でも藤原君ちょっと明るくなったね」  遠藤さんはにっと唇を持ち上げて、ルーズリーフに何かを書き込みはじめた。春から伸ばしているらしい遠藤さんの髪は、首筋を見えなくするくらいは伸びている。卒業する頃は肩を超えるかもしれない。僕はまだなにも書かれていない黒板をぼんやりと見つめる。風でカーテンがふくらんで、窓から射す光が教室を照らしている。僕は眩しくなって、すこしだけ目を細めた。

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