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第二話 突然の訃報

「は? 事故? え……亡くなった!?」  訃報が入ったのは、抑制剤を打ち終わったあとだ。使い終えた針をキャップごと取り去って、ポーチに入れると携帯がぶるぶると震えた。着信を見ると知らない番号で、雅也の同僚だった。  どうやって電話口で答えたのかは覚えていない。雅也が客先の会社から戻るときに車と接触し、亡くなったのを静かに聞いてスマホを鞄にしまい込む。  あ……。  同僚の震えた声が耳障りに残り、非情ではないが、まず浮かんだ考えは一つしかない。  ――お迎えどうしよう。    近所に祖父母なんていない。夫である雅也は駆け落ち同然で家をでて、(つがい)になった。母子家庭で育った男のオメガとの結婚なんて、東雲家には相応しくない。身分違いだと罵られ、手を取り合って、電車に揺られ、縁もゆかりもない地方都市に礎を築いた。二人の子供を授かり、やっとここまできたのに……。  左手の腕時計に気づいて、はっとする。いけない。もう午後十八時半を過ぎている。十九時までにはお迎えに行かないと延長してしまう。  俺しか、いない。とにかく急ごう。  とりあえず、子供をキャッチアップして、ご飯は冷凍でもなんでも済まして、食べさせてる間に電話して、お隣の佐々木さんになんとか面倒をみてもらうよう頼んで……。  頭がパニックだ。裕は多目的トイレからなんとか出て、改札へ定期をかざして駅をでる。歩きなれた道を辿り、駐輪場を目指した。夕暮れはすでに闇色に染まって、街灯がつき始めている。  事故? 亡くなった? ほんとうか?  慌ただしく出勤していく夫、雅也をあさに見た。子供たちとともに早よ行けと手を振り、そのあとはママチャリに二人を乗せて急いでいた。それが最後だ。予兆も予感もなにも感じない、日常。うそだ。うん、多分うそだ。確かに朝も保育園での準備に忙しく、仕上げ磨きも手伝ってくれない雅也に消えてしまえ! と願ったが、そんなにすぐに叶うわけない。  あ、と裕はふと思った。  ――口座、凍結されるまえに現金を引き出さないと。  地下にある駐輪場から、ママチャリを取り出して、暑いわけでもないのに額に汗がうっすらと伝う。ペダルに足をのせて、のろのろと冬枯れの並木を横目にコンビニに向かおうとした。  ……あいつのカードの暗証番号すらわからないんだっけ。  共働きだから、財布は別々にしていた。カードや通帳は互いに管理している。  大丈夫。うん、まだ俺の定期と貯金がある。  裕は途中まで行きかけたコンビニの道を方向転換して、保育園へ大きな船を漕ぐようにまた走り始める。どうしても足に力がでない。長年付き添ったといっても、まだ五年だ。雅也と出会って、子供ができて、まだ五年しかたっていない。  すでに街は暗闇に溶け込んで、歩道は家路につこうと人であふれている。  うん、おれ、落ち着け、戦いはこれからだ。

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