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11.泡沫(R)
昼間に薄暗いと感じたグレンの部屋は夜になると一層暗くて、すぐそばに居るグレンの顔を見上げてもその表情ははっきりと読み取れない。
けれども、あのダークグレーがぎらりと光ると、途端にこの胸は高揚した。それは、シャッターを切られる瞬間よりももっとずっと劣情を煽る。
「ご主人は本当に悪い子だ。傷心の俺を誘惑するなんて」
「⋯⋯ふふ、可愛い。傷付いてるお前を慰めるのは、主人である僕の役目だろ?」
小さなベッドがぎしりと沈む。シーツとグレンに挟まれて、鼻の中にグレンの匂いが充満する。少し苦いのは、きっと隠れて煙草を吸っているせいだろう。
「主人、自分で拡げて見せて?」
腰の下に枕を敷かれる。ぷつぷつとブラウスの釦をを外されたあと、下着ごとスラックスも取り払われた。言われるまま両足を開くと、既に半勃ちになったものから溢れている先走りが、腹に伝い落ちていく。
「そんなんじゃ見えない。ちゃんと拡げて」
「はずかしい⋯⋯」
「もっと恥ずかしい事、しただろ? 一緒に」
言われて、胸の中がカァッと熱くなる。
グレンの前では、もう見せていないところなんて無い。それぐらいに恥ずかしいところも汚いところも、すべてを見せてしまった。
リオは諦めたように、期待するように、両手を尻たぶに這わせて力一杯に左右に引っ張った。
「まだ触ってねえのにヒクヒクして可愛いな?」
「ぃ、言わないで……」
二つの瞳が、自ら拡げたアナルを覗いている。まだこの肌のどこにも触れられていないのに、体の奥にじんとした疼きが芽生えて、自分でも分かるほどにお尻の穴が収縮してしまう。
「あっ⋯⋯ぁ、はや、く⋯⋯」
「うん? 何してほしい?」
焦らすように言うグレンの左手は、目の前の局部を無視してリオの腰の曲線を撫でていく。反動で肩が揺れると、愉しむように左手全体で上半身を撫でられて。
「んぅっ⋯⋯太いの、欲しいぃ」
胸の中心で主張する尖りをピンと弾かれると、求めるように後ろの穴がひくんと窄まった。硬くなってしまった乳首をすり潰されるとたまらなくて、腰が勝手に揺れてしまう。
「太いのって、何? ちゃんと言わないとわからないよ、ご主人。言ってごらん?」
垂れ落ちていく先走りを掬った指先が、とうとう後ろの穴に触れる。早く中に挿れてほしいのに、そこを撫でる指先は焦らすように弱々しい。
「太いの、欲しいっ⋯⋯ナカ、が良いっ⋯⋯!」
乳首とアナルを同時にくるくると撫でられて、腹の奥に熱が溜まっていく。ナカに欲しい、と願っても、指はちっとも粘膜を越えては来てくれない。
欲しい、欲しい。あの時みたいに、縁の中に指を入れてぐちゃぐちゃに掻き混ぜて欲しい。腹の内側を抉るように擦って欲しい。指じゃなくて、グレンの――。
「ご主人。ちゃんと言えたら、挿れてやるよ。俺のちんこが欲しいって」
心を読まれたようなタイミングで言われて、目の前に爆弾を落とされたような感覚に身震いした。
「そ、そんな……こと、言えな……」
そんな淫猥な言葉を、この口から言うなんて有り得ない。けれど、それさえ言えば欲しい物が貰える。またあの時みたいに、気を失うほどの気持ち良い事をして貰える。
リオの思考が脆く溶け出す。
「お前の、ちんこ⋯⋯欲しい。僕のナカに挿れて⋯⋯」
告げ終わるやいなや、それまで焦らすように撫でられていた後孔を硬くて熱いものでこじ開けられた。強烈な痛さが貫く。腰を引いても、むしろ両腕で固定されて無遠慮なまでに奥まで突き破られる。
「あっ⋯⋯! あっ、ぁあっ⋯⋯! 痛、いたいっ⋯⋯!」
「お前が欲しいって言ったんだろ?」
「ん、んっ⋯⋯言った、欲しい、もっと⋯⋯!」
「痛くされるの、好きだもんな」
性急にがつがつと最奥まで抉られて、同時にペニスを扱かれる。ひっきりなしに先走りが溢れて、グレンの下で乱れ切って喘ぐ。
だらしない。はしたない。情け無い。けれど、これが極上の快楽。
この瞬間は、リオの体を占領するのはグレンだけになる。そしてそれは同時に、グレンの体をリオだけのものにしていることと同義だ。
「グレン、グレン⋯⋯っ!」
グレンの体も、心も、欲望も、哀しいという感情すら独り占めしたい。グレンが抱く感情は、全て、すべて。
息を詰めて、捩じ込んだ指先で前立腺を激しく擦ると、張ち切れた精がペニスの先端からどぷりと飛び出した。
「っ⋯⋯! ぁっあぁッ⋯⋯!」
荒い息が一人分、リオの自室に広がっていく。白い粘液でどろどろになった手をどさりとシーツの上に預けて、力尽きたように天井を見上げた。
「は⋯⋯、はぁ、はぁ⋯⋯っ」
ここはリオの自室で、ベッドの上に一人きりで横たえている。左手は精にまみれ、右の指にはぬるぬるした香油がまとわりついている。
グレンで、抜いた。
実のところあの日以来、毎日こうしている。この六日間グレンを避け、グレンを嫌いだと吹いて周り、自分にさえそう言い聞かせていたくせに、夜中になれば彼に犯される妄想をして自慰を繰り返していた。
「ゆび……、三本挿れても……たりない……」
あの夜、グレンの指で擦られたところを自分の指で同じように擦っているのに。しつこく扱かれた素早い手首の動きを真似て、彼の声を耳の中に呼び戻して、その存在を完璧に妄想しているのに。
あの夜のような突き抜ける絶頂には届かない。
「⋯⋯は、はぁ⋯⋯、グレン⋯⋯」
グレンとは、馬車から降りた後に庭先で別れた。彼の部屋には行っていない。あれもこれも全部リオの妄想だ。
馬車の中で、赤橙色の髪の女を見ていたグレンの顔を忘れられない。庭先で別れる前のグレンの顔を忘れられない。
六日ぶりに顔を合わせた彼が、他人に思いを寄せているのだと知って焦燥した。
グレンの憂いも悦びも揺れる感情も、全てが欲しい。誰にも渡さない。誰にも譲らない。あれは自分だけの、奴隷だ。自分だけのものだ。
けれど。
リオがグレンを求めても、グレンはリオを求めていない。
彼がリオの相手をするのは、リオが主人で、グレンが奴隷だから。それ以外の理由はない。
だから、この感情は口が裂けても言えない。言えないのなら、このまま妄想のままで良い。
シーツの上で脱力し切ったリオは、後始末をする気力もなく、そのままゆっくりと瞳を閉じた。
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