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第3話
教室に戻る途中で授業開始のチャイムが鳴る。急ぐのかと思いきやゆっくりと歩き、チャイムからやや遅れて教室に戻ると誰もいなかった。そうか、さっきのジャージはこれから体育だったからか。
今日は朝から女子に立て続けに告白されてさすがにこの男も疲れているんだろう。サボタージュを決め込むようだ。
──今、チャンスだな!
そう思うのに、男はガタンと音を立てて椅子に座る。しばらく、眼鏡の男子の席を眺めていたがようやく立ち上がった。ついに覚悟を決めたらしい。
席に近付くと、恐る恐る机と椅子に触れる。
──おい、男。それはただの椅子と机だ。あの眼鏡の男子には関係ないぞ。
言ってやりたいのに、男はそっと椅子を引くと席に座った。目の前の机の上に、さっきまで眼鏡の男子が来ていた制服の入ったバッグが置かれている。きちんとした性格なのか、ただ丸められて机上に放り出された制服が多い中で、それはとても好感が持てるものだった。
制服の納められたバッグを見つめ、それから机の中を探る。机の中もきちんと整理して入れられている。筆箱と教科書、それからライトノベルの本。
男はポケットからチョコレートを取り出し、考える。
──そうだ、机に入れてくれ!
俺は届かない声を張り上げる。けれど、男はもう一度ポケットにチョコレートを戻した。それから制服の入ったバッグに手を伸ばす。
──ちょっと待て、男! 何をする気だ!? まさか、禁断の……服の匂いを嗅ぐんじゃないだろうな! それはダメだ……!!
そんな俺の心配も杞憂だった。バッグに手を掛け口を開けたものの、中の制服を取り出すことなく元に戻す。
──バッグの中に入れないのかよ! この男、どこまで俺を焦らすんだ……。期待しすぎて辛いんだが。
そのまま少し考え席を立つ。教室の後ろのロッカーに行くと、中に掛けられているコートを手に取る。そして、コートをそのまま抱き締めた。ぎゅっと締め付けられて苦しくなる。これが胸が痛いってやつだろうか。この男はあの眼鏡の男子を抱き締めるつもりで、コートを抱いているんだろうか。
コートを抱いたまま深く息を吐くと、今度こそポケットからチョコレートを取り出しコートのポケットに滑り込ませた。『好きだ』と想いをこめるのがわかる。なんと言っても俺は想いの権化のようなものだからだ。
男はコートを元に戻すと、自分のコートを取り出しそのままカバンを持って今日の用事はお終いとばかりに帰ってしまった。
──お前の想いは俺が責任を持って伝える、任せておけ。
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