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失態続き
一週間後、退院の日
「……はい、子宮の形成ももう終わっていますし退院しても大丈夫でしょう。
もうごまかしたりすることのないように本人にお伝えください」
「あー……その節では本当にご迷惑おかけしました。
本人に伝えておきますので」
「……いまご本人がいないところで失礼ですかヒートの話をしても宜しいでしょうか」
はっきりとわかるほどに空気が変わった
佇まいを直し手帳を取り出し書く準備をする
「辻村様のヒートに関しては起こると思われますが……
期間……薬……」
資料なども交えながら話してくれる内容を手帳に書き込みながら頭の中も整理していく
一言一句漏らさないように
聞き終わり内容をまとめていく
・ヒートは多分くる(オメガになった原因もよくわかってないため確証はない)
・アルファのときにあったオメガのフェロモン、抑制剤が効きにくいという体質
おそらくオメガになってもその体質が受け継がれている可能性がある
抑制剤、アルファのフェロモンが効かない可能性が高い
・初めてのヒートの場合パニックになる可能性があるためそばに誰かがいるようにする
・一番いいのは番を作ること
「んん……なかなか厳しいですね。
ヒートがいつ来るかもわからないしおそらく抑制剤も効かないとは」
「一応抑制剤出しておきますが効くかどうかわからないので……
あと、ヒートがひどい場合や抑制剤の多量摂取等あればすぐに連絡を。
最悪入院するという手もありますので、ほんと最悪の場合ですが」
「わかりました」
「ヒートの話に関してはどうしましょう。
私の方から本人にお伝えしましょうか?
その場合パニックになられる可能性が高いのでご同伴お願いしたいのですが」
「……いえ、僕の方から本人に伝えます。
だいたいのことは理解できましたので大丈夫かと」
「わかりました、ではこちらからは本人には伝えないようにいたします。
ではあとは受付の方で退院の手続きをお願いします」
「辻村くん久しぶり、あの日以来か。
……ちょっと話したいことがあるから時間もらってもいいかな」
「……大丈夫です」
完璧に警戒されてる。荷物を前に持っていつでも逃げ出せるような体勢をとってるし。
深く突っ込まず近くのカフェへと入る。
「ご注文お伺いいたします」
「僕はアイスコーヒーで、辻村くんはどうする?」
「俺はアイスティーお願いします」
かしこまりましたーと去っていく店員を見届け早速本題へと入る。
「費用だとか、迷惑かけたとかって話はあとにして先にサクッと情報のすり合わせしようか。
まず、辻村くんの入院に関しては」
「あ、ま、待ってください。
スマホの方にメモするので」
辻村くんの入院に関しては盲腸と過労ってことで処理していること。
仕事の方も問題なく終わっていること。
時折質問もされるから答えつつお互いに情報をすり合わせていく。
時間が経って大量の水滴がついたコーヒーを飲む。
こおりが溶けてかなり薄くなっている、いやもとからこういう味なのかもしれないが。
「何から何まですみません。その、俺、」
「また言い出すー。 あのね、相手がもういいよって言ってることは何度も掘り返さない。
お礼だって何回も言われたらうざいでしょ?
だからもう金取られなかったラッキー! ぐらいの気持ちで受け入れちゃったらいいんだよ」
「そんな、でも……」
またぶつくさ言い出すのに少し腹が立つ。
「じゃあさ、辻村くんが仕事で全部一人で抱え込まないってことでもうこの話なしにしよう。相手に頼れるときにはちゃんと頼る。
実際、辻村くんが仕事できるのは知ってるけど引き継ぎのときに抱えてるの多すぎて大変だったからね。それに相手のも引き受けちゃったら相手のためにならないし。
それに相手に頼るっていうのも仕事だからね、相手に頼れない人が出世なんてできるわけないからね」
「……わかりました、善処します」
「んん、……ほら、笑って。
しかめっ面ばっかりしないで、ほらにぃー」
うりうりと辻村くんの頬を軽く引っ張って笑った顔を作る。
なにすんだと言わんばかりの目をしている。
……似てるんだけど違うんだよなぁ、もっとこう殺してやると言わんばかりの目がいいんだよなぁ。
不意に辻村くんが僕の手を控えめに払いのける。
「……ほっぺ引っ張らないでください」
ほっぺ。
「……なんですか、急に固まって。
いい加減俺のほっぺから手、離してもらえませんか」
「あ、いや、うんごめんね。
ちょっとびっくりしただけだから」
慌てて手を離し両手で降参のポーズを作りイスに深く腰掛ける。
ほっぺ、なんて成人した男から出るなんて思いもしなかった。
なんでだろう、よくわからないけど、なんだろこれ、破壊力。
「その、色々お世話になりました。
もう俺一人で大丈夫ですのでありがとうございました」
「ほんっとそういう……んん? 辻村くんっていつも”俺”って言ってたっけ?
いつもは”私”じゃ」
ガタンッと大きな音がなる。
辻村くんが目を見開いて顔を真っ赤にしている。
「え、だ、だいじょ」
「すみません、その、俺、違う、気抜けてて。
……すみません、言葉遣い気をつけます」
「いや、全然気にしてないけど……」
わたわたとお金をおいて帰ります、とカフェから出ていく。
カランと氷が音を立てる。
何故か心臓が高鳴っている。
あのときの、初めてあの目を見たときと同じような高揚感。
真っ赤な顔をして恥ずかしそうなあの目、顔。
思い出して顔が熱くなっていることに気づく。
(なんだろう、これ)
氷で薄まったコーヒーを飲む。
少しぬるくなっていて嫌な苦味があって全然美味しくない。
それでも熱くなった頭を覚ますのには最適だ。
……あ。
「ヒートのこと、話すの忘れてた」
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