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嫌になる

「辻村さーん、入院されてたんですよねぇ。 もう体大丈夫ですかぁ?」 「はい、すっかり。仕事に穴開けてすみません。 あの、そんなにひっつかれると困ると言いますか……」 ……朝から女性社員に囲まれている。 声をかけようとするも次から次へと人が出てきてタイミングが合わない。 諦め職場に向かおうとするとポケット中の携帯が震えだす。 着信画面を見てゴーヤをまるかじりしたような顔になる。 「……あー、あーあぁ。 どうせまた言われるんだろうなー、やだなーもう」 未だ震える携帯の着信をいれる。 「社長、失礼いたします」 「レオ! 大きくなったな!」 「しゃちょ、じゃない父さん二三日で人間が変わるわけないでしょ」 「父さんよりも大きくなるなんて……昔はこんなに小さかったのに」 「……あの、話はなんですか? 僕も仕事戻りたいんですが」 「ああそうだった! レオが最近ご執心の辻村敦斗くんについてだ」 すっと顔から感情が抜け落ちる。 父さんが言ってくるって言うことはつまり…… 「レオがやっと恋人作って身を固めるつもりになったのか!」 「だと思いました」 「父さんはな、いつもいつも遊び歩いてるレオの事心配だったんだからな。 なんだなんだどこまで進んだんだ、もう付き合ってるのか? 彼、ついこの間まで入院していただろう、体調はもう大丈夫か? 父さんたちはアルファ同士とかに偏見もないしいつ挨拶に来ても準備は」 「父さん、一回待ってください。 僕たちそういう関係ではなくてですね、えーっと……」 少し悩み言葉を探す。 「父さん、あまり茶化さずに聞いていただきたいのですが、彼について少し話があります」 「……まぁ座りなさい。 長くなるだろう、ゆっくり話を聞こう」 言葉を選びながら隠すことなく辻村くんのことを伝える。 ……おそらく僕のせいでこうなってであろうことも包み隠さず。 「……という感じです」 「……突発的な性転換、か。 誤診ではなく原因がわからないとはなぁ、人体の不思議ってやつだな。 んっとオメガってことはヒートも来ると仮定して、その場合どうするかだな」 「それについて相談があります。 本人はバレるのは嫌がっていますのでどうにかして理由をつけてヒートのことを隠したく……」 「んー……そうだな、その場合は親御様の介護なり仕事をでっち上げてやるのが一番だろう。 急にヒート起きても親が倒れたから実家に帰ったってレオから全体に連絡すればいい。 時間がかかったとしてもごまかせるし申請手続きも後で本人がすればいいし、入院よりはめんどくさくはないし。 でも親への連絡拒否、ねぇ。そりゃあ急にオメガになりました、なんて言えないだろうし。もしくはアルファ至上主義オメガ嫌いな親なのかねぇ。 ……クソ野郎」 「……父さん」 「ああ! ごめんごめん、レオのことを悪く言ったわけでも辻村敦人くんの親御さんに悪態をついたわけでもない。ただボクがそんな人間が嫌いだからつい、ね」 どう答えればいいかもわからず父さんからそっと目をそらす。 父さんが少し困ったように咳払いをしたと思うと大げさなまでに大きな声を出す。 「いやー、しっかし遊んでばっかのレオがなぁ、番にしたいと思える相手ができるなんてな」 「……いえ、間違ってはないんですけど、番……責任取っているだけで」 「いやいや、嬉しいくてな。 こんなこと続けてたらいつ後ろから刺されても仕方ないって父さんも幸子さんも心配だったからな。 何をしてもいつもどこかつまらなそうな顔したし。でもレオが辻村くんの話をするときはすごく楽しそうで嬉しいよ」 「……迷惑ばかりかけてすみません、僕は、父さんの子供で」 ぺしん、と軽く頭に手を置かれる。 「レオ」 「……はい」 「親にとってはなぁ、子供はどんな子でもかわいいもんだ。一部くそみたいな親もいるけどな。レオはどれだけ間違ってもいいし遠回りしてもいいから、ただボクたちはレオが元気にいてくれるだけで嬉しいんだよ。 レオが父さんの会社継ぎたいって勉強してるのも頑張ってるのも知ってる。 もう十分すぎるほど父さんたちは嬉しいんだ。あとはレオ自身が笑って過ごしてくれればこれ以上にない幸せなんだよ。だから……そんなふうに言っちゃだめだ。レオは父さんたちの子供なんだから。いくらでも迷惑かけなさい、迷惑だと思わないこと。 子供のわがままなんて親からしたら嬉しいものだよ」 「……すみません」 「まあ次そんなこと言ったら幸子さんに言うからな。 ……幸子さん怖いからあんまり言いたくないんだけど」 よっぽど嬉しいのかいつも以上によく笑ってよく喋っている。 それだけ心配かけてたということに気づきどんな顔をすればいいか分からずうなじをなでる。 嬉しいけれど恥ずかしくて何度あってもなれない感覚。 そしてそれが少し、 (嫌になる) 「おっと、時間か。 悪いレオ、呼び出しといて中途半端にしか話せなくて」 「んん……いえ、僕の方も貴重なお時間いただきありがとうございました。 それでは失礼します」 「ああ! またいい知らせ聞けることを楽しみにしてるからな!」 部屋を出て一つ深呼吸。 気持ちを落ち着かせる。 すでに父さんに知られているとは、さすがだなとしか言いようがない。 あとは僕と辻村くんの問題だ。 「いやそれが一番の問題なんだけどなぁ」 幸先の悪さにはあぁぁと大きなため息をつく。 と、同時に携帯が震えだす。 「はい、武岡です。今? 仕事中。 夜は空いてるけど……んん、辻村くんを? ああなるほど、ごめんいつも……」

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