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価値
「辻村さん休憩だよー、一回休みなよー」
「……吉岡さんすみません、ありがとうございます」
声をかけられ渋々手を止める。
一ヶ月いなかったせいで仕事の勘を取り戻すのに苦労する。
午前中は確認するだけで手一杯で自分の仕事が全然進んでいない。
もっと早くやらないとただでさえ迷惑かけてるのに、休憩時間返上してでも、
「うわっ?!」
「ココアです、温かいもの飲んだ方がいいですよ。
辻村さん顔こわばりすぎです、鬼みたいになってますよ」
半ば押し付けるように渡されお礼を言って一口飲む。
「……あったかいですね」
「そーそー、辻村さんそうやって笑ってる方が絶対いいですよ。
仕事焦ってるのもわかりますが繁忙期もまだ先ですしゆっくりやればいいんですよ。
終わらないなら私でも他の人を頼ってください。いつも辻村さんに助けられてたので、誰だって喜んで手伝いますから」
「……すみません」
「んーすいません、なんか説教みたいになって。
でも同期ですし、辻村さんいつも一人で抱え込もうとするし。
こういう時じゃないと言えないので」
「……すみません、ありがとうございます」
「私午後から手があくので何でも言ってくださいね。
それじゃご飯いってきま~す」
温かいココアを飲み干し椅子に深く腰掛ける。
緊張が少しほぐれて眠くなってくる。
他の人を頼る、か。
「……武岡さんにも言われたな」
でも人を頼るってどうすればいいんだろう。
頼る、甘える、お願いする、押し付ける……
『あの、先生、これわからなくて』
『アルファなんだからそれぐらいわかるでしょ。いちいち人に聞かないの』
『……ごめんなさい』
わからない
『流石はアルファね、オメガの〇〇くんとは大違い! みんなも〇〇くんのようになってはいけません。わかりましたか?』
『はーい!』
なんでおれはよくてあの子はだめなの?
『アルファでもねぇ、親があんなのだから……』
『母親がいないのも問題なのよ、アルファなのにオメガの匂いがわからないんですって。本当にアルファなのかしら』
『親の問題よ、言いたくないけどあんなのだから敦人くんに悪影響なのよ』
なんでお父さんたちのことを悪く言うの? おれがだめなアルファだから?
おれがりっぱなアルファになったら何も言われない? オメガはだめなんだ。
もっとしっかりしなきゃもっとちゃんと。
もっとたくさんべんきょうしなきゃ、おれはアルファなんだから。
父さんたちがこまるから、おれのせいで母さんは
(いなくなったんだから)
ぎぃとかすかな音に目が覚める。
「……しまった」
涙が流れていることに気づき慌てて袖で拭う。
今の俺はアルファではない。弱くて価値がないオメガ。
アルファではない俺は……生きていてもいいのだろうか。
アルファという価値すらなくなった俺は……今の俺は何ができるんだろうか。
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