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第2話

「しろや、しろ。起きられるかい」 「こほっ、はい、父上。こほっ、大丈夫です」  離れの座敷にひとりで伏しているしろは、臥せっているせいで細くなった腕を突っ張り、布団から半身を起こした。今日は天気がいいせいか、少し調子がいい。寝ているばかりでろくに読めなくなった本も、少し開いてみたくなるような陽気だ。  ひとり起居するのは、別段苦ではなかった。病気で人が寄り付かぬため、かえって孤独だったが、しろは庭の見えるこの離れの景色が好きだった。人がくれば、母屋から続く廊下のわずかな軋み音でわかるし、野鳥の鳴き声や、風による木々のざわめきが、しばし耳を楽しませた。  今日も、渡り廊下を下ってくる数種類の足音を聞いて、しろは胸を弾ませたところだった。父の銀有がかねてより言っていた、有名な薬師の先生の訪問の日だったからだ。 「先生、こちらが息子のしろでございます。しろ、ご挨拶なさい」 「小鳥遊しろです。よろしくお願いします」  しろが頭を下げると、銀有と薬師の先生が並んでいる後ろに、連れの息子がひとり立っているのと目が合った。 「涼架一之介と申します。こちらは息子の琅一です」  すっと背筋の伸びた一之介が、傍らに隠れるようにして付いてきた琅一を紹介する。ぺこりと頭を下げた琅一は、まろやかな若木のようだった。一之介は目が見えないわけではないが、杖をついており、琅一はそんな父を後ろから見守っているようだった。  驚いたのは琅一の目だ。  黒く吸い込まれそうな闇色をしている。しろとそれほど変わらぬ年で、人生の何たるかを悟っているような落ち着きが見られた。肌は日に焼け、彫りが深く、浅黒く、蓬髪が図鑑で見る獅子を思わせる姿だった。しろと力比べをしたら、一瞬で負けてしまいそうなほど、ひょろりと背が高く、静かな迫力がある。 「先生、どうぞお願いいたします」  銀有が言うと、一之介は「ひととおり見てみましょう」と頷いた。

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