5 / 40
第5話
そのまま眠ってしまったらしく、目が覚めると行灯の火がゆらりとたわんで見えた。
こほっ、と咳をすると、目覚めの合図のように琅一には聞こえたようだった。
「よく眠ってた」
柱時計が午後七時半を知らせていた。
起き上がろうとして、白い布を掛けられた御膳が傍らにあるのに気づいた。
「これ……」
「俺は先に食べた。それはお前の分だ」
琅一のぶっきらぼうな態度を見ていると、縄張り意識のある野生動物の情に接しているような気分になる。引き寄せて、食べ、少し残すと、琅一が真っ暗な目をして睨んできた。
「残さず食べないのか?」
「ごめん……お腹がいっぱいで」
本当は、胸がいっぱいで食べられそうになかったのだが、しろはそれを誤魔化した。琅一が頼りないしろを庇ってくれることが嬉しく、一方でしろの未熟さが際立つように感じてしまうのだ。
「残すのはいけないことだとわかっているんだけど」
言うと、琅一は溜め息とともに苛立ちの声を上げた。
「わかってないだろ。こんな田舎で白い米の飯が茶碗一杯食べられるのは、ものすごく贅沢なことなんだぞ。この家で、白い米の飯を食べているのは、銀有さんと、お師匠様と、たぶんお前だけだ」
「……うん」
叱られてうなだれていると、琅一は少し遠慮がちに言った。
「それだけお前は大事にされてるんだ」
「……ごめん」
琅一からすれば、しろが我が儘を言っているように見えるのだろう。それが悔しくて、恥ずかしくて、これ以上言われたら泣いてしまいそうだった。
しろが俯くと、琅一は失敗したと言わんばかりに蓬髪をがしがしとかき回した。
「終わったのなら、下げるから」
言って、しろから御膳を取り上げると、母屋へと持って行った。
ともだちにシェアしよう!