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第5話

 そのまま眠ってしまったらしく、目が覚めると行灯の火がゆらりとたわんで見えた。  こほっ、と咳をすると、目覚めの合図のように琅一には聞こえたようだった。 「よく眠ってた」  柱時計が午後七時半を知らせていた。  起き上がろうとして、白い布を掛けられた御膳が傍らにあるのに気づいた。 「これ……」 「俺は先に食べた。それはお前の分だ」  琅一のぶっきらぼうな態度を見ていると、縄張り意識のある野生動物の情に接しているような気分になる。引き寄せて、食べ、少し残すと、琅一が真っ暗な目をして睨んできた。 「残さず食べないのか?」 「ごめん……お腹がいっぱいで」  本当は、胸がいっぱいで食べられそうになかったのだが、しろはそれを誤魔化した。琅一が頼りないしろを庇ってくれることが嬉しく、一方でしろの未熟さが際立つように感じてしまうのだ。 「残すのはいけないことだとわかっているんだけど」  言うと、琅一は溜め息とともに苛立ちの声を上げた。 「わかってないだろ。こんな田舎で白い米の飯が茶碗一杯食べられるのは、ものすごく贅沢なことなんだぞ。この家で、白い米の飯を食べているのは、銀有さんと、お師匠様と、たぶんお前だけだ」 「……うん」  叱られてうなだれていると、琅一は少し遠慮がちに言った。 「それだけお前は大事にされてるんだ」 「……ごめん」  琅一からすれば、しろが我が儘を言っているように見えるのだろう。それが悔しくて、恥ずかしくて、これ以上言われたら泣いてしまいそうだった。  しろが俯くと、琅一は失敗したと言わんばかりに蓬髪をがしがしとかき回した。 「終わったのなら、下げるから」  言って、しろから御膳を取り上げると、母屋へと持って行った。

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