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第6話

 戻ってきた琅一に誘われ、風呂に行くと、しろが裸になる傍で、琅一もまた着物を脱いだ。 「あの」  しろが慌てて振り返ると、琅一はしれっとした顔で、「お前の次に入るよう言われたから、時間の節約」と言った。 「でも、っその」  琅一の若木のような脚が見え、その間にあるものが見え、しろは恥ずかしくなって俯く。だが、琅一はしろの気持ちなどまるで見えていない様子でせっついた。 「早く奥へ行け。寒いだろ」 「あの、でも……っ」 「いいから」  そういうわけにはいかないのだ。しろの肋の浮いた貧相な白い身体に比べ、琅一は適度に筋肉がついた、しなやかな身体つきをしていた。おまけに琅一は、触れたところから花びらが零れるのもかまわずに、手ぬぐいでしろを丹念に洗い出した。 「前、洗えよ」  言われて渡された手ぬぐいで、しろは羞恥心を隠しながら下半身を洗うと、手ぬぐいを琅一に返す。触れ合った指先から花びらが、水滴とともにぽとりぽとりと落ちるのが不思議だ。  一番風呂は肌がぴりつく。  しろが湯に浸かっている間に、琅一が自分の身体を手早く洗い上げてゆく。背中の肩甲骨が動くたびに、まるで翼をもがれた跡のようにしなった。美しい均整のとれた身体にぼうっとなっていると、「温まったか?」と声をかけられ、頷くと湯船から出るよう促された。 「湯冷めしないうちに布団に入るんだぞ」  琅一のせいで、いつもより長めの入浴をして、布団に入ったしろは、また咳が出た。咳き込んでいると、やがて琅一がきて、しろが生成した白い花びらを手ぬぐいに包んで大事そうに自室へ持ち込んだ。  それから、いきなり諸肌を脱ぐと、下帯一枚になって、しろの傍にきた。 「少しずれろ」 「えっ……? 何で? きみの布団は?」 「一枚しかのべてない。伽子だからな」 「と、ぎこ、って……えっ、だって」  一緒に寝るという意思表示に慌てたしろを見下ろした琅一は、決まり悪そうな顔をした。 「お師匠様の指示だ。文句言うなよ」 「お師匠様、って……」  師匠の命令だからと言って、全部に従うものなのだろうか。しろが困惑に近い視線を向けると、琅一は照れた様子で布団の端をめくった。頬が心なしか上気しているのは、それとも湯につかったせいだろうか。 「な、何か、するの……?」  思わずしろが警戒して尋ねる。  すると琅一は、人の悪い笑みを浮かべた。 「してほしいのか?」 (あ、笑った……)  頬を赤くして必死に首を横に振るしろに、「冗談だ」と言った琅一は、添い寝の体勢に入った。 「嘘だ、しない。もう眠い。寝るぞ」  布団の中に入ってくる琅一の四肢の逞しさにどきどきしていると、琅一の腕や胸や脚が、しろのそれに巻き付いた。花びらがほろりと生まれる。 (──あの、笑顔)  まるで琅一が世間慣れした大人のように見えたしろは、その顔を夢想しているうちに、いつしか眠りに落ちていった。

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