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第7話
それからというもの、朝起きると琅一に花びら三枚を煎じたお茶をつくってもらい、しろはそれを飲むようになった。十日もすると咳も減り、縁側へ出られるようになった上、二週間後には初めて母屋にまで歩いて行けるようになり、世界が広がり、しろがめきめき良くなっていることを知ると、銀有も喜んだ。
三枚の花びらを飲ませたあとの残りの花びらは、全部琅一が回収し、一之介のもとに週一度の頻度で送っているようだった。琅一の貸与料である一日二円は重い出費であるらしく、銀有の元来の持病であった胃弱に拍車がかかっているようだったが、しろには何もできなかった。
その日、しろが琅一とともに母屋へ脚を伸ばし、書斎へと入っていくと、銀有が蹲っていた。
「父上っ、どうかしましたか?」
駆け寄るしろに、銀有は目を瞠った。
「おお、しろ。咳は? ずいぶん健やかになったなあ。見違えるようだ」
「父上こそ、お身体にどこか悪いところでも?」
不安になり尋ねるしろに、銀有は脂汗を拭い、答えた。
「いや。いつもの胃弱だよ。それより何だい? お前が母屋へくるなど珍しい」
「今日はお許しをいただきにきました。この琅一と、神社の裏の梅林へ行きたいのです」
「そうか。そろそろ梅が見頃だったな」
銀有が言うと、しろは頷いた。相変わらず琅一は無愛想だったが、しろはもう、この少年が信頼に足る相手であることを知っていた。
「それより父上、どこか悪いのではないですか?」
「気にするな。いつものことだ。少しこうしていれば良くなる」
身体を丸め、力なく笑う銀有に、たくさん心配をかけていることを、しろは恥じた。銀有はしろのために湯水のように金を使ったが、己のためには極めて吝嗇であった。
「おれの花びらのように、父上にも特効薬があればいいのに……」
そう呟いたしろをしばらく凝視していた銀有だったが、やがて肩を叩いて、許可を出した。
「優しい子だね。大丈夫。気の持ちようさ。お弁当を持たせてやるから、行っておいで」
言って、銀有は琅一にも声を掛けた。
「琅一、くれぐれもこの子をよろしく頼むよ」
「了解しました」
琅一はいつもの無表情で頷いただけだったが、しろはもう、琅一の優しいことを知っていたから、怖くなかった。
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