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第12話

 その後、朝を待って郷の駐在がきたが、凶器であるはずの匕首は一之介と琅一が持ち去ったのか、現場になく、血痕もなく、おおかた銀有が酔っ払ったのだろうということで、傷害事件には蹴りがついた。 「もっとだ、もっと出せ……! お前の病のおかげでどれだけ金がかかったと思っている! 親不孝者はいらぬ! もっと花びらを出せ!」  夜になると、銀有はしろを叱責するようになっていった。さすがに手出しはできないらしかったが、半刻、一刻とそれが続き、しろが泣き出すまで止まぬこともしばしばだった。  涙を流すと、時々小さな花びらの子どものようなものが生まれる。それが出ると叱責は止み、銀有はそそくさと花びらを集め、引き上げるのだった。涙が花びらに変わらぬ日もあり、なぜか考えた時、しろは気づいてしまった。琅一のことを考えたり、琅一のために流した涙が、花びらに変化するのだった。  それを悟ってから、しろはなるべく琅一のことを考えないよう務めた。考えることで琅一との想い出を汚してしまうような気がしたし、考えるほどに哀しくなってしまい、嗚咽が漏れるのを見られたくなかったからだ。  また、銀有はどこからともなく琅一に雰囲気の似た子どもを連れてきては、しろに触らせるようになった。 「さあ、選べ! この子を! 琅一だと思って選べ!」  だが、しろが触っても、彼らからは何も生まれず、銀有はそのことでも悩むようになった。  しろは花びらを零すことができない自分の体質を責める一方で、これで良かったのかもしれない、とも思った。手紙もこないゆえ、あれから一之介がどうなったかわからないままだったが、どうなっていようときっと琅一は銀有を恨むだろうし、銀有を父に持つしろのことも、疎むだろうと思った。  しろは、死を覚悟するうちに二年が過ぎ、もう長くないと言われるようになった。  一日中、咳をしながら横たわっている以外に何もできない。痩せぎすの身体。筋肉の落ちた腕や脚。骨の出っ張ったところは、赤く床ずれの痣になっているところもある。銀有は罪悪感からか、しろの目を見なくなっていき、庭に植えられた白い花たちは残らず摘み取られ、しろのこぼした小さな花びらの欠片と混ぜられていった。  月に一度、人相の悪い男たちがやってきて、それらを引き取ってゆく。銀有はぺこぺこしながら、それでも絶対にしろのことだけは離そうとしなかった。 「あれは私の言うこともろくに聞かぬ頑固者ですから」 「あれは体が弱く、世話人なしではやっていけませんから」  この後に及んでしろを庇い立てする銀有のことが、哀れでならなかった。  そんな折、かつての一之介にそっくり似た格好をした琅一が、小鳥遊家の門を叩いた。  現れた琅一は十五歳。  しろが十七歳になる年の、雪深い冬の夜のことだった。

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