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第16話
翌朝、「姐さん」がしろを自分の部屋に呼んだ。
「あんたは細いし、女の子に見えないこともないから、これをあげるから着な」
言って取り出したのは、女性ものの旅装束だった。
「あたしがちっちゃい時、ここにきたばかりの頃に使ってたものさ。ほら、柄も少し古いけど、ぴったりだ。胸がないけど、詰め物さえすりゃ、わかりゃしないよ」
言われるままに着替えさせられ、しろは慌てた。
「でも、大事なものなんじゃ……」
「いいのさ」
言って、琅一の方を見る。琅一は地図を片手に何かを確認するために、階下へ降りていった。
「あの子、やっぱり変わったね」
「え?」
「昨夜はふられちまったよ。誰のおかげだろうね」
言って、しろの細い脚に脚絆を巻きつけながら笑った。
「好いた人と一緒になれるってのは、あたしらにとっちゃ夢だ。あんたがそうしてくれるなら、夢を託せる。大丈夫。何があったかは知らないけれど、あの子はあんたを何より大切に思ってるよ。あたしが保証する」
その言葉を聞いた瞬間、じわっと胸に迫ってくるものがあった。父の銀有がどうなったかわからず、琅一は肝心なことを何も話してくれない。促されるままにここまできたけれど、この先、何が待ち受けているのか、不安でたまらなかった。
「姐さん、おれ……」
「泣くんじゃないよ、男の子だろ? いや、今は女の子か。……幸せにおなり」
「あ、ありが……ありがとう……」
しろはしゃくり上げるのを堪えるので精一杯で、締めた帯を上から叩いた「姐さん」に、こくこくと何度も頷いた。
しろは琅一と一緒に、その妓楼を裏口からあとにした。
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