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第21話(*)
精通した時期を知られてしまってからというもの、また琅一の帰宅時間が変わった。
少し早目に帰ってくるなり、しろにあれをしているか尋ね、まだだと言うと強引にしろの身体を弄び、出したものを飲まされる。つたなく抵抗を繰り返すしろは、つい嫌がってしまうが、本当は琅一に触れられると気が狂いそうなほど気持ちが良く、それを待ちわびるようになってしまっていた。
けれど、琅一の妓楼通いは完全には止まず、しろは思い悩む日々だった。
初めて琅一にされた日、世界にこんなことがあるのかと、驚きのあまりしばらく何もできなかった。ああいったことを琅一がしろ以外の誰かとしているのだと思うと、心臓を刺し貫かれるような鈍い痛みが胸に走る。
(こんな悩みを抱えるなんて、まるで琅一のことが好きみたいじゃないか……)
──好き?
考えてから、はたと思い当たる。
そうだ。琅一のことがどうでもよければ、きっとこんなに悩まない。琅一が何を考えているかわからないことも、琅一という人間を大切に思うから悩んでしまうのだ。
自覚すると平常心ではいられなくなり、琅一の前で、もっと乱れてしまうしろだった。
「ぁ、っふ、ぅ、んっ、ぁ、ぁっ……」
琅一に背中を預け、白い脚を折り曲げたり伸ばしたりするしろの様子は、まるで誘ってでもいるかのような艶かしい色を放つようになっていた。
「ふ、ぁっ、で、ちゃ……っ、また、っ出ちゃ……あぁっ!」
琅一に支えられながら、その手に透明な体液にまみれた少し歪な丸い粒を、ぽとりぽとりと吐き出す。ひとりでする時も、琅一のことを想いながらすると同じ現象が起きるので、しろの心の持ち方がこの雫を吐き出させることが、わかった。
「ん、飲ませ、て……」
甘えるように上を向いてねだると、琅一は熱を孕んだ目をする。
「ぁ、んっ、んんっ……っ」
口移しに雫を飲まされることにもだいぶ慣れ、琅一のくちづけにも応えられるようになった。が、隠微な遊びに染まってゆくしろを見る琅一は、いつもどこか昏い目をして苦しげだった。
そんな日が続いたある時、いつものように琅一に愛撫されたしろがもがいていると、その身体を支えていた琅一が、不意に箍が外れたようにしろを布団の上に組み敷いた。
「っ……?」
浴衣のはだけたところから突き出しているしろの脚を片方、肩に担ぎ、下帯を外される。
「は、んっ、琅、いち……?」
快楽で少しぼうっとなったしろが問う眼差しを向けると、琅一はしろの、腹に付かんばかりに勃起したものを堰き止めたまま、自分の下帯をずらし、しろの茎に猛った熱い剛直を重ね合わせた。
「ぁ、んん、ぅぁ、っ、ん、琅、ろ、いち……っ!」
熱でひりつくほどの雄芯を裏筋に付けられ、大きな手でひとまとめにに扱かれる。いつも後ろで見守っていた琅一の顔が、その時ばかりは欲情に塗れてしろを見下ろしていた。その視線にすら感じ入ってしまったしろがさらに乱れ、琅一へと腕を伸ばす。指先が頬に触れると、ぱらぱらと白い花びらが散った。
「ぁ、ぁっ、いく、いっ……っ──……!」
上り詰めたしろの先端から、次々と白い腹部に雫が転がり落ちる。が、琅一がまだであるため、極めたあとも責め苦はしばらく続くことになった。
「ぁっ、ふぁ、っぁ、ぁっ、んぅ、っ……!」
琅一は、しろがいくつ雫を吐き出しても、それとは関係なくひたむきに自身の快楽を追った。眉をしかめ、愉悦に耽溺する琅一を見ていると、しろは何度でも兆してしまう。どころか琅一も、声を投げても返ってこないほど、ふたりでつくり出す快楽に溺れているようだった。
「はぁ、ぅ、も、う、止ま……っ」
ぽとん、ぽとん、と断続的に続く吐露が終わり、絶頂に頭が煮えたぎり、次第に快楽以外のことが考えられなくなっていくしろだった。
「ゃ、ぁっ、ゆ、許し……って、ぇっ……!」
あまりにも長く引き伸ばされた快楽に、高みから降りてこられなくなったしろを、逞しい琅一の屹立が追い上げるように再び悦楽へと押し上げてゆく。
「ぁ、っぁ、ぁあぁぁっ、ま、また、いっちゃ、ぁ! ぁぅ……っ!」
そうして何度も追いやられた結果、褥にはいつしか白い花びらと、七色に光るしろの射精の痕が散った。しろの放出に半瞬、遅れるようにして、やっと白濁を吐いた琅一は、自身の体液としろの結晶の混じり合ったものが残された掌を見て、しばし呆然とした。
「ろ、いち……?」
「……っ」
刹那、琅一はまるで叱られたような苦悶の表情を浮かべ、しろの着物の前をかきあわせて俯いた。
全力疾走のあとのように双方とも呼吸を乱していた。頬を紅色に染め、涙が滲んだしろは、琅一の方へ思わず腕を伸ばした。
「琅、いち……」
しろの甘えるような媚を含んだ声を聞いた琅一の顔が歪む。後悔しているのだとしたら、そんな必要は微塵もないのだと伝えようとした瞬間、琅一は歯を食い縛り、しろに背中を向けた。
「琅……っ?」
しろが伸ばした手が、空をかく。
いつもならしろの後始末をして、寝巻きも布団も全部整えてくれるのに、その日ばかりは琅一は、そんな余裕もないようだった。しろは視線で追い縋ったが、琅一は青ざめたまま部屋をあとにし、結局夜が明けるまで布団の中に戻ってこなかった。
「あ、……」
(──呆れられた、のかな。おれが、あまりに淫らだから……)
刹那、胸が痛んで、はらはらと目尻から花びらが落ちる。我も忘れて乱れ合ったあの時間が、甘さを伴いひとつになりたい願望をしろの中で形成してゆく。
見ないように、自覚しないように誤魔化してきたつもりだったが、琅一を前にすると、もう限界だった。
身体を重ねたいとこいねがうほどに、琅一を求めている。
(おれは琅一が、好きだ)
恋が、こんなにつらいものだとは思わなかった。
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