22 / 40

第22話

 それ以降、琅一は自分に禁じるように、しろに触れなくなった。  それまでの接触が嘘のように、ひとりでするよう促されるだけで、見ていてくれさえしない。朝には、同じ布団の中にいるので、しろを嫌っているわけではないのだろうと思ったが、目覚めの甘さとは対照的に、琅一をひとり待つ夜は、寂しくつらいものになっていった。 「ん、ろ、いち……っ」  今宵も、しろが考えるのは、琅一のことだ。  これを毎日、と言われたとおりにするうちに、しろは琅一を想像すると、簡単に勃ってしまうようになっていった。 (おれ、身体がおかしいのかな)  こんなに淫らでは駄目だと思いはするものの、つい琅一がいない夜は、琅一の胸板や、心臓の鼓動、逞しい腕などを想いながら、してしまう。雫を飲み込むうちに、皮肉なことにしろはめきめき健康になり、最近では店先に出て手伝いをしたり、外をしばらく散策できるまでになっていた。  すると不思議なもので、琅一も、一時の不安定さが嘘のように、しろを見て静かに笑うようになった。 「空咳がおさまってきたな、良かった」  そう言って喜ばれると、単純だが、しろもとても嬉しくなってしまう。 「うん、ありがとう。その、琅一の、色々のおかげだ……」  面と向かって礼を言うには、隠微なことをしすぎたと思う。照れくさかったが、もう少し快復したら、本格的に琅一の仕事を手伝えるようになりたい、という希望をしろは持っていた。 「あの、琅一。お願いがある」 「?」  しろは琅一の方を向いて、そのまま手をつき、頭を下げた。 「おれがもっと快復したら、仕事をください。何でもする。だから琅一の手伝いをさせてくれないか」 「それは……」 「おれじゃ役不足かもしれないけど……っ、仕事は覚えるし、字も書ける。算術だって、だいぶ上達したんだ。だから……。役立たずのままでいるのは、もう嫌なんだ」  花弁症のせいで、不幸になる人間をたくさん見てきた。何かを持て余すような顔をする琅一を、そんな目には遭わせたくない。もしも背負っている荷物が重いなら、一緒に担ぐことぐらい、できるようになりたかった。  しかし、体力仕事や長時間労働は無理である。やれることが限られてくるとなると、しろに何かを任せるのは、まだ難しいかもしれない。でも今は無理でも、いつかできる時がきた時、やる意志があることを示しておきたかった。  するとしばらく考え込んでいた琅一が、やがて遠慮がちにこんなことを言ってきた。 「……実は以前から、しろに頼みたいことがあったんだ。嫌なら、断ってくれてかまわない」 「何? やるよ」  しろが勢い込んで身を乗り出すと、琅一は呆れた。 「お前……聞いてもいないうちに了解するなよ。そんなんだからつけ込まれるんだぞ」 「誰もつけ込んだりしてないだろ。それで、頼みって何?」  琅一からの頼まれごとなんて、初めてのような気がする。  しろはうきうきして、二つ返事で頷いた。

ともだちにシェアしよう!