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第24話

「きたかい? 待ちかねたよ。やあ、しろさん、今日も一段と可愛いね」  淫蕩な様子を見られた張本人とは思えない明るい声で、岩永はしろを歓迎した。情交のあとが色濃く残る奥の襖をからりと開け、手前の座敷へ出てくると、自ら行灯の火を消し、板戸を開けた。  直射日光がしろの視界を灼く。 「あ、りがとう、ございます……」  どう反応したものか迷ったしろが、礼節そのままに頭を下げると、岩永はしろと琅一の前に胡座をかいた。 「ふふ、素直だ。にしても、陽のもとで見ると一段と綺麗だねぇ」  先日は夜だったからね、と言われ、しろは思わず、あのあと琅一にされたことを思い出して赤面した。琅一は慣れているのか、全く動じない。いつもこんななのだろうか、と思うと、胸の中が少し落ち着かなくなった。 「今日はこれをおさめにきました」  言って、琅一が岩永の目前に、絹布に包まれた雫を差し出した。 「へえ」  岩永は布の中から出てきた、ころりとした七色に光る白く歪な球形の雫を手に取ると、光に透かしてそれを見た。 「これは……白蝶貝? いや、形も色も真珠に似ているが、少し歪だな。それでいて、螺鈿細工のような光を放つ……、これは?」 「名前はまだ。しろの体内で生成されたものです」  琅一はあくまで冷静に、事実だけを述べたが、岩永の指に挟まれている雫がどうやってできたものなのかを知っているしろは、まるで身体の中を覗かれているような気がして落ち着かなかった。 「これ、もらっていいの? 貴重なものなんじゃないの?」 「かまいません」  琅一に、今日はこれを献上にいくのだと事前に説明されていたので、しろにも異存はなかった。だが、あの隠微な行為の結果が光のもとに晒され、他人の手に渡るのを見ると、うずうずとした気持ちになる。 「ふうん。これはよく見ると、螺鈿でも真珠でもないね。僕の知る限り、舶来の宝石でもないようだ。もっと艶かしい色をしている。七色に輝くところは白蝶貝のようでもあるが……強度は?」 「食べたりしないようお願いします。しろ以外には毒ですので」  琅一はそう注釈を入れてから言った。 「強度は真珠とそう変わりません。磨けば、きれいに丸くすることもできます」 「なるほど」  岩永は光に目を細め、呟いた。 「軽くて、丈夫で、きれいだ。これは金になるね」  その言葉にびっくりしたしろに、岩永は視線を移した。 「これをしろさんが?」  尋ねられ、返答を求められる。  しろが傍らを仰ぐと、琅一が頷いて促したので、口を開く。 「か、身体が吐き出す雫です」  言いながら、どこまで岩永は知っているのか、そもそも明け透けに話していいことなのか、事前に琅一と打ち合わせをしなかったことを少し後悔した。案の定、岩永はそこを突いてきた。 「吐き出す? 妙な言い回しだね」 「花びらが生成されるのはご存知でしょう。同じ要領です」  琅一が助け舟を出すと、岩永はそれに飛び乗った。 「どこから?」  再び問われて、琅一に答えることを促されたしろは、羞恥心を抑えながら言った。 「身体の、中から、です」 「ふうん。……見せて?」  明日雨降る? とでも尋ねる口調で言われ、しろは慌てて琅一を振り仰いだ。頼みがあると言われた。それが嬉しくて琅一についてきた。だから琅一の頼みなら、何でもかなえてやりたいと思う。  が、琅一が振り返った目を見て、しろは震えた。昏い闇色の目が、それを晒すことを強いている。今まで、琅一としろだけの秘密の儀式だったことを。 「ろ、琅一……」  しろは震えながら、岩永を振り返った。  茶目っ気のある優しそうな目は、一分の揺らぎもなく光っていた。  しろがそれを吐き出す瞬間を、見たい、という好奇心に満ちた色をして。

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