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第29話(*)
「琅一……っ? ちょ、っこれ、何、ほどいて……」
宣言するなり琅一はしろの右手首と右足首、左手首と左足首を縛った。身体を折り曲げた状態で、浴衣の裾が乱れる。いくら一緒に風呂に入っていた仲とはいえ、意図して身体を晒すのと、強いられるのとではまるで違う。意思に反して下肢をさらけ出すことになったしろは、闇の中、顔が火照るのを感じた。
「琅一……っ!」
膝の間に手を入れられ、ぐいと左右に開かされる。下帯をほどかれる間に、ぱらぱらと触れた皮膚から白い花びらが生成された。
「何を……んぁっ」
いきなり茎を捕まれ、琅一がそれを口内に導き入れた。その激しい熱にしろはたちまち昂り、姿を変えてしまう。
「熱、ぁ、ゃ、だ……っ、汚……っ」
そんなところを口に含むなんて汚いからやめてほしいと言う間もなく、根元を拘束され、口を離して問われる。
「嫌いになったか」
「そっ……、そんな、急に、ひっ……!」
琅一の口内の粘膜に敏感な先端が擦れる。以前、粘膜には花が咲かないと言っていたことがあったが、確かに口内に含まれたところは、唾液に濡れて兆しはするものの、花びらを生成しなかった。
「ぁ、ぅ、くぅ、っ」
ぢゅっ、と吸われて、兆しはじめた傘のところを指の輪で逆さに扱かれる。
「んっ……ひぅ、ぁ、あ、っ、何、で、こんな……っ」
「嫌いになれ、しろ」
まるで泣いてでもいるみたいに哀願する琅一の気持ちが、しろにはわからない。
琅一は兆したしろの先端を親指で数度ぐりぐりと乱暴に抉った。そのたびに声が出て、身体が反応してしまう。琅一にされていると思うと、それがどんなことでも嬉しいと身体が言ってしまっている。
「ゃぁ……っ、離……っ、ん、んんっ、ふ、は、ぁぁ……」
恥ずかしさにまみれながら与えられる快楽に、次第に膝から力が抜けていく。
「ぁ、も、いく……っ、いく、から……っ!」
しろが涙ながらに申告すると、琅一は上り詰めるわずか数瞬前に口を離した。が、指の輪で扱かれて、その手の中に結晶めいた雫をぽとぽとと落としてしまう。乱れ切った姿に頬が火照り、とても琅一の顔を見られる状態でなかったしろは、そのままぎゅ、と目を閉じた。
「……嫌いになったか」
言いながら、琅一はしろの髪を梳いて顔をしかめた。琅一の掌を汚すように、白い花びらが咲く。
「ぅ、うぅ……っ」
「早く嫌いになれと言っているのに」
「ゃぁ、っ、だ、む、り、ぃ……っ」
「無理じゃなくなるまで、するぞ。──しろ」
言うと琅一は懐から、しろに渡したのと同じ練り薬の小さな木箱を取り出した。おぼろげに視線を彷徨わせるしろの前で何をするのかと思いきや、琅一はその中身を指ですくい、あろうことかしろの後蕾へと塗りつけた。
「ひっ……」
体温でわずかに溶け出したその薬を、丹念にしろの襞に擦り込むようにされる。あらぬ場所を琅一に触らせていることに混乱したしろが唸り声を上げるが、琅一は昏い眼差しでしろを見下ろすばかりで、止めるつもりはないようだった。
「っ」
しばらく揉み込むようにされたあとで、ぬくりと指が挿入された。
「知っているか。男はここでするんだ」
「ぅ、ろ、琅……っ、ゃめ、っひ」
そんなことを言われながら、琅一の指が挿入され、中を探るように丹念にされると、正気でいられなくなった。
「苦、し、ぃ……っろ、いちぃ……」
揉み込まれ、何かを探す動きに、しろは奥歯を噛んで耐えた。が、ある場所を柔らかく掻かれると、今まで味わったことのない衝撃が身体を駆け抜けた。
「あぁぁっ……! そこ、止……っ!」
腰の奥から稲妻のようなぴりぴりとした感覚が無尽蔵に湧き出てきて、しろの身体を蝕む。仰け反った拍子に、ぎゅっと思わず琅一の指を締め付けてしまう。
「やじゃないだろ。それとも、嫌いになったから止めてほしいのか?」
「やだっ、しないで……っ、それ、しなっ……ひぁあっ!」
強すぎるその感覚を、しろは反射的に拒んでしまうが、琅一に教えられた言葉が脳裏を谺して、このまま結ばれてしまってもいい、とすら考えてしまう。いっそもうしろの了承などかまわずに最後までしてくれれば、気持ちの踏ん切りがつくのではないかとすら思ってしまったしろは、自分を叱った。
(だめだ、そんなの……っ)
正確にはしろが欲しいと思っていても、琅一の心が見えない状態でするのは、駄目だと思った。
「声を出しても、誰もこないし、聞こえない」
「ぅ、あっ……!」
琅一は一度突き止めたその場所をしつこいぐらいに揉み込んだ。そのたびに眩い感覚が広がり、目前で光が弾ける。「嫌いになれ」と言った琅一もその頃には息を乱し、しろの内部をこれでもかと抉った。
そしてやがて琅一の挿入した指の存在にしろが慣れてくる頃を見計らい、転がっていた歪な結晶の雫を後蕾にあてがい、圧をかけた。
「ひぅ……っ、ぁっ!」
ぱたた、としろの涙が散る。花びらの子どもが散る。
しろの声にならない悲鳴とともに、雫が後蕾の中へと入る。
「あ……っ? や、やだ……」
「もうひとつ」
「やめ、っ、ぃ、うぅっ……!」
本来開かれるべき場所ではない後蕾を、自分の吐き出した雫を挿入されることで強引に開かされる。強い違和感に冷や汗をかいているのに、琅一はやめようとするばかりか、もう一粒、中へと強いようとしていた。
「嫌いになるまで、続ける。だから早く……」
「や、だっ、むり、ぃ……」
「無理でもやるんだ、しろ」
琅一は苦悶するように言い、しろの身体を弄んだ。
「ぁぅ、ゃぁ……っ、も、入れな……っ」
その後も凌辱は続き、しろの身体は琅一に触れられるたびに白く歪な雫を吐き出した。吐き出させられたその雫を、琅一は残らずしろの中に押し込み、最後に後蕾を指で蓋をする。そのままずぬぬ、と指を奥まで挿入されると、しろは頭の中が真っ白になった。
(どう、しよう、おれ……)
「嫌いになれ。嫌いになれば、……終わりにしてやる」
(お尻、琅一にされてる……っ)
くちづけも何もない、一方的な行為。
なのに琅一の存在が、しろを高みへと押し上げてゆく。
「いやらしいな、しろ。初めてなのに、もう八個も飲み込んで、おまけに俺の指を二本も咥え込んでいる。嫌だと言うわりには締め付けてくるのは、悦んでいるからか?」
琅一の指がしろの弱い場所を掻くと、正気を保てなくなるような悦楽が訪れる。ちがう、いやだ、と口は拒むものの、琅一の言うとおり、しろは次第に琅一による性的狼藉に溺れていった。
「はぁ……、っ、も、ゃだぁ……っ、ろ、いち……、拡が、る……ぅ、っ」
中を弄られてもたらされる愉楽の深さに耐えきれなくなったしろは泣き出した。
「も、むりぃ……っ、ぃ、ぃゃぁ……っ、ろ、琅……っ」
「嫌いになったか」
「ぅ、ぅぅ……っ」
「嫌いになったか、しろ」
こくこくと頷くと、琅一はやにわにしろの髪に触れた。ぱらりと白い花びらがこぼれるのを確認すると、失望の溜め息をもらす。
「……こんなんでは駄目だ。到底及ばない」
言うなり中で指を擦り合わせるように動かされ、しろは啼いた。
「ひ、ん、っ、ごろごろ、だめ、ぇ……っ」
「駄目? こんなに感じておいて、よく言う。お前はとんだ淫乱だ」
言葉でさえ嬲り、しろを遠ざけようとする。
「俺を嫌いにならないと、終わらないぞ」
琅一が指を交差させると、中が酷くうねった。
「ぁゃ──……っ」
快楽の限界値をとっくに超えてしまったしろは、首を振って激しくむせび泣いた。しゃくりあげるたびに琅一に撫でられた髪からはらり、はらりと花びらが咲き、ろくに触れられてもいない茎の先端からぽとりぽとりと、時々思い出したように雫が落ちる。そうして落ちて生まれた雫は琅一によりつままれ、容赦なくしろの中へと還元されるのだった。
下帯を解かれて丸見えになった下腹部が、琅一の責め苦のせいで苦しい。
そこが満杯になったら、この仕置きのような凌辱も、終わるのだろうか。
しかし、終わりを望むには、琅一との行為はあまりにも甘やかで激し過ぎた。
「きら、っ、いら、いぃ……っ、も、や、だ……っぁ、ぁぁっ……!」
ついに観念したしろが、その言葉を口にする。
しかし琅一はそのたびにしろの髪に触れ、「嘘だ」「まだだ」と口にした。
「う、そじゃ、な……っ、き、らいぃ……っ、う、うぅ……っ」
いくら口で言っても、琅一には通じない。
悶えながら、どうにか身体を立て直そうとするしろに、琅一は眦を染め、苦しげな表情をした。
(お、れ……っ、ど、し、たら……)
どこで釦が掛け違えられたのか、嫌いだと口に出すたびに、新たな感覚に目覚めてゆく。悦楽と呼ばれる甘く胸の内に荒れ狂う衝動を、しろは初めて身をもって知った。
(中に指、とか、たくさん、入れられてるのに、気持ちいい……っ)
「んっ、ぁ、っぁ、ろ、ぃち……ぃ、きらぁ、きらい……ぃ、ゃぁ──……っ」
その夜、琅一による責め苦は、しろの意識が飛んでしまうまで続けられた。
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