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 とはいえ、ツノと尾と翼が邪魔らしくうつ伏せで丸くなるニューイは、あんまり哀れに見える。  それでもしばらくは無視をしていた。  しかし九蔵が眠ったと思ったニューイがそろーりそろーりと骸骨頭を上げ、コツンと額を九蔵の手に当てたところで、限界だ。  だって、またしても眼窩(がんか)から謎の液体をメソ、と溢れさせ、九蔵を起こさないよう控えめに触れてくるんだぞ?  ──そりゃ背を向けてスペース作ってから誘ってやるしかねーだろっ……!  小さな九蔵が拳を作って叫んだ。  今夜もそうなることを思うと、頭が痛くなる。情に訴えるなんて酷い悪魔め。おかげで少し変な夢も見た。  イケメンニューイと同衾しているせいで、もしかして欲求不満なのかもしれない。顔以外ろくなことがないじゃないか。顔以外。 (…………まぁ、俺の言うことは、なんやかんやで聞くんですけどね)  九蔵はヒタリと思考を止める。  困ったニューイだが、九蔵に好かれようとひたむきなところを思うと、なかなか追い出すに踏み切れなかった。  うるさく騒ぐこともない。余計なことをしなければ、ニューイはのんびり屋でほがらかな天然男。  ただそれは、監督する九蔵がいてこそ成り立つ平和である。  毎度バイトで家を空けるたびに、今日はなにが壊れたかと気が気じゃない。  ちなみに今朝はトースターを逆さに振って、そのまま投げ飛ばした。  スライドドア部分が開けられなかったらしい。機械の扱いが雑すぎる。 「ねーねーココちゃん」 「昨日はドライヤー……一昨日はテレビ……直るっつっても騒音被害に肝が冷える俺の心労が災害級だぜ……」 「コーコーちゃーん」 「あ、はい」 「ものすごーく渋い顔してるけど、どしたの? やっぱりなんかあったよね?」  それはもうありまくっている。  毎日壊れる物たちに思いを馳せていた九蔵は、不思議そうな夕奈に内心で頷いた。  できれば相談したい。現役の主婦の夕奈なら、家事の分担や相手へのマイルドな伝え方などはよく知っているはずだ。  けれどまず〝悪魔がやってきたんですけど〟の段階で、頭がおかしくなったと思われるに決まっている。 「いえいえ。なんでもありません」  結果、九蔵は、ニヒィ、と下手くそな笑顔を前面に押し出して誤魔化した。  眉が八の字に下がり口角がうすらとひねり上がる。周囲にマッドサイエンティストと言われる九蔵のにこやかな笑顔だ。  ヘタレ? コミュ障?  なんとでも言え。こちとらソロぼっち陰キャのインドアオタクである。 「えー? ほんとかなぁ」 「ほんとデス。最近寝付けなくて、寝坊気味なんデス。そんで今も眠いから、早く帰りたいだけなんデス」 「ココちゃんって愛想笑い凄く変だよね」 「うぐっ」  普通に変ではなく、凄く変。  せめて普通でありたかった九蔵の心に、グサッ! とナイフが深々と突き刺さった。 「変って、俺の渾身の笑顔に……ミソ先輩はニコニコしながらハートをジャックナイフで抉りますよね……」 「ん!? 傷害事件じゃん! ごめん!」 「ナイーブ若者世代! 訴訟も辞さない」 「ナイーブ若者世代! ごめんってば!」  九蔵が胸を押えて大袈裟に悲しんでみせると、夕奈は「起訴撤廃でソワソワ尋問なしにするからぁ~」と両手を合わせる。  途端、九蔵はケロッとなんでもない表情に戻して顔を上げた。 「あー! 策士ココちゃんね!?」 「言質取りましたんで、ノーコメント」 「うふふっ、なぁにそれ〜」  口元に指でバッテンを作る九蔵に、夕奈はニコニコと楽しそうに笑う。  笑ってもらえて嬉しい。  無愛想な自分にも分け隔てない夕奈を楽しませられると、心の小さな九蔵たちはヨッシャー! とガッツポーズをする。 (……ゲームのやりすぎでクマが消えねーからか、スマイル経験値の問題か)  実は多少、いやそれなりに笑顔が下手なことを気にしているが、ノープロブレム。九蔵はナイーブ九蔵ではなくコンクリート九蔵である。無敵だ。

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