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 心配ないとアピールしてみても澄央は頑として譲らなかった。  ガシガシと後頭部を軽くかく。  となれば、奥の手を使うしかない。  九蔵はスッ、とエプロンのポケットからスマホを取りだし、画面を澄央の目の前に突き出して見せた。 「ほら」 「…………」  そこに写っているのは、スマホを向けられて直立するニューイの姿である。  九蔵との結婚を諦めて帰ってしまった時のために撮影した保存用の写真だ。もちろんエプロンスタイル。  許可済みなので隠し撮りでもない。むしろ九蔵に写真を撮られて嬉しげだった。こういうところだけは、ニューイのいいところだと思う。 「はー……」  そんなニューイの写真を見た澄央は、静かに背筋を正し──天を仰いだ。 「即同居しますわ……」 「だろ」  うんうんと深く頷き同意する。気持ちはわかるぞ。生で拝んだ時はリアルCGを噛み締めたとも。  九蔵と瓜二つの澄央の反応。  なにを隠そうこの澄央という男は、九蔵と趣味が同じという意味で仲が良かった。  九蔵はイケメン好きのバイ。  澄央は男好きのゲイ。  やや性癖は違うが、イケメン好きで乙女ゲームにハマったオタクという点で、これ以上ない良き盟友なのだ。  メンクイコンビとも言う。  親しくなるまでマッハだったとも。 「なんスかこの高解像度イケメン。顔が良すぎる。黒髪メガネだったら一目惚れしてた。スーツ着てたら即落ち二コマッスよ」 「そうなんだよ……数々のマイナス要素に中身が天然気味な残念伯爵でも補ってあまりあるくらいには、顔がいいんだよ……はぁ……お陰様で、家破壊してないか気になって落ち着かない日々なんだわ……まぁ、今朝も抜かりなく紺のエプロンは渡しておいたんだけどな」 「え、ココさん天才じゃないスか?」 「俺もちょっとそう思った」  ひとつのスマホ画面を囲み、二人揃って口元に手を当て同時に溜息を吐いた。  平均より大きな男と平均よりだいぶ大きな男が額を集めてなにをしているのやら。  だが、人間スタイルのニューイに紺のエプロンはあまりにも似合うのである。おかげで日々進歩なく部屋の中を奇想天外に荒らされても、ついつい許してしまうのだ。  そうでなければたった一週間でいったい何人のニューイを追い出していたかわかったもんじゃない。  ある意味でギリギリの同居生活だ。 「あ~貴族服、最高スね。ベストとシャツインの隙間の概念とか永久ッスわ。リアルで拝みたい」 「許可取れたらいいんだけど、もちっとアイツに常識を教えてからだな……」 「常識スか……それじゃ俺のお古の服持ってくるんで、別スチルもお願いス」 「お、それはありがたい。近いうちに頼む」 「明日シフト被ってるんで、明日持ってくるスよ」 「相変わらずフットワーク軽いなっ。はぁ〜、ナスの十分の一でもアイツができる子になりゃいいのに……!」 「ふぎゅ」  お留守番中の悪魔にテレパス。  マイペースにイケメン萌えを堪能しつつも行動の早いかわいい後輩を力強く抱きしめて、九蔵は癒し成分を補給するのだった。

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