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要するに、こういうことだ。
同居を許したのにバツが悪くなったもののニューイを追い出せないのでせめて距離をとる、九蔵。
それに気づかず無理に置いてもらっているのに寂しいと距離を縮めた、ニューイ。
どちらも悪く、どちらも悪くない。
けれどニューイがそんな九蔵を愛していて同じように愛してほしいのなら、やり方を変えるべきなのは──ニューイなのだ。
『イチルの生まれ変わり……同じ魂なのに、同じじゃない性質を持つ、個々残 九蔵……』
ソッ、と異形の手を胸に当てた。
柔らかくその手を握り、コロンコロンと穏やかに跳ねる肋骨の内側を抑える。
「キミは……凄く怖がりでヘタくそな、悪魔の気遣い方をする人間なのだな……」
まぶたを開くと、ニューイの姿は人間に擬態した姿に戻っていた。心は安定したのだ。
好意の見返りなんて求めない。愛する人のために自分を磨くことは〝我慢〟ではなく、〝求愛行動〟じゃないか。
──愛されるために、まずは彼に謝って、そして彼と、話をしよう。
目を合わせてもらえなくても、触れる寸前で距離を取られても、構わない。まずは話ができればそれでいい。
ニューイの願いは晴々と前を向く。
「げー……つっまんねー……」
「ん?」
ふと、ニューイはフローリングの上で、九蔵が残して行った小型の機械を見つけた。
黒い手帳型のカバーがついたもの。確か、スマートフォン。
九蔵が出かける時は肌身離さず持っていっていたはずの、イケメンというものが住む機械だ。
ヒョイと手に取る。トントンと真っ暗な画面を壊さないよう気をつけて叩くと、画面には時刻表示らしい数字とほほ笑みを浮かべる金髪の人間の絵が映った。
これには見覚えがある。
九蔵がよくこの機械で話をしているイケメンとやらに似ているような気がした。
(これは九蔵が私より大好きなもの……いやいかん。こらえよう。呪文呪文……九蔵の好きなものは私の好きなもの……九蔵の大切なものは私の大切なもの……)
ニューイは湧き上がる悋気を理性と愛による呪文で抑えて、深呼吸をする。
ロック画面ならバレまいとしてお気に入りの乙女ゲームの推しキャラ画像を設定していることなど、ニューイには知る由もない。
落ち着いたニューイはベッドの下にスマホを見せつけながら、不貞腐れた腐れ縁へ「ズーズィ」と呼びかけた。
「チッ。なぁーにぃー?」
舌打ち混じりに返事がある。しかし九蔵のことだけを考えているニューイには、これっぽっちも気にならない。
ズーズィに感謝を述べ、ありがたいありがたいと拝む。ものすごく嫌がられてものすごく貶されたものの、今のニューイは無敵なのでノーダメージだ。
九蔵、九蔵。
彼だけしか見えていない。
「ズーズィ。あと一つだけ、頼みがある」
──気づきを得たのなら、あとは心の赴くままに、愛しい人へまっしぐら。
「この機械の使い方を、教えてくれないかい?」
そう言って、ツヤツヤピカピカのメンタルに復活したひたすらに直進する悪魔は、ニコリと美しく微笑んだ。
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