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◇ ◇ ◇
「はぁ……」
初めてニューイがやってきた日の帰り道と違い、今日の帰り道が、九蔵にはいつもより濁って見えた。
深いため息がなによりの証拠だ。
理由はもちろん、今朝のニューイとのやりとりが原因である。
「なんつーかな……なんであぁなったか……自分が悪いってこと、全部わかってっから……よけい合わせる顔がないんだよな……」
小虫のように情けなくささめく。
一歩一歩と踏み出す足が、鉛でも巻きついているかのように気だるい。
九蔵には相談相手がいなかった。
というよりは、自発的な相談や自分の問題に誰かを巻き込むことが苦手だ。
それに九蔵は誰になにを言われずともだいたいは客観視し、理解している。
自分のことも、ニューイのことも。
皮肉だが、よく理解できる。
九蔵の魂を愛するニューイにとって、マトモに目も合わせず一定の距離を保って関係を進退させない自分は悪い男だ。
他人に心を晒せない。
無差別に警戒する不義理な九蔵は、遅かれ早かれこうなると予感したはずだった。
なのに帰りたくない、暮らしを手伝うからそばに置いてくれ、と諦めないニューイに折れて関係を始めることに同意した。
そして見合う条件をつけたのも自分。
ならばこれは、同意の契約。
ニューイは契約を律儀に守ろうとしている。結果がポンコツでも、悪意があってそうしているわけじゃないことはわかっていた。
それは、確かに気が気じゃなくて、心が休まらない生活の原因ではある。
──では、ほんの少しのやり取りで声を荒らげ、逆上して自分勝手な言葉を吐き、よりいっそう彼を傷つけた理由は?
「〝自分が招いた結果で勝手に疲れて、その行動でアイツを傷つけてる〟って、わかりやすく教えられたから、だ……はぁ……」
当然わかっているから、この帰り道は、ため息が止まらなかった。
自分の醜悪な部分だ。
こんなに自己嫌悪するのは、傷つけるのが嫌だった、というだけじゃないのだ。
ニューイは魂という、九蔵がなにかしたわけじゃない理由で愛を尽くす。
彼の素直な想いを受けながらなにも返せず、彼を愛する努力もない。なんなら現実での恋愛なんて無理だとすら思っているのに、それも言っていない。
悪魔の生活ベタに不満がある。
けれど、それだって言っていない。
それを言って起こるニューイとの摩擦が、九蔵は考えただけで一人こそ安全だと感じるほど恐ろしかった。
(......いや。ニューイが、じゃないな。他人が、だろ)
人と深く関わることが怖い。
「いつまで気にしてんだか.......」
自嘲する。人間関係の面倒事が嫌いだ。それで痛い目に遭った。まあ今回の相手は、悪魔だが。
ニューイはいい男だ。
見た目だけでなく、中身も誠実でいい男だ。これはメンクイの贔屓じゃない。
だからこそ──こんないい男であっても〝やっぱりずっと一人でいればよかったな〟と後悔する自分が、酷いのだ。
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