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 共に食事をすれば自然と距離は近くなるし話をすることもできる。  ニューイの希望を、全てではないが叶えてやれるかもしれない。暗然とアルバイトをしながらどうにかひねり出した方法だ。  しかしニューイに申し訳ないことをしたとわかっていても、九蔵はニューイのことをあまりよく知らない。好きな食べ物もわからずじまい。  そもそも愛想を尽かして消えているだろうと思っていた。  家路での足が重かったのは、そういう複雑な色があったのだ。  ふたを開けてみれば諦めるどころかニューイのほうから謝った上に、とんでもないことを言われてしまったわけだが。  一枚も二枚も、悪魔様は上手(うわて)。  ニューイの言ったことを要約すると、〝共にいたい限りすれ違いや摩擦はなんの障害でもない〟ということ。酷い殺し文句だと思う。乙女ゲーの攻略対象なら推していた。  牛丼を前に感激しているニューイを見ると面はゆい気分になり、九蔵の頬が桃色に色づいた。  帰宅してから結構な頻度で熟している。距離が近いと困る点だ。 「ほら、フタ取ってやる。カップ麺みたいにカップは食うなよ」 「九蔵っこれはホカホカしているっ。九蔵はトーストかレートーゴハンばっかり食べているから温めなくてもホカホカのこれは初めてだっ」 「そりゃ悪ぅございますね。けど仕方ねーだろ? お前と暮らし始めてまだ一週間くらいだし、お前メシはいらんとかだったし……一人暮らしだと食えたらなんでもいいんだよ。俺以外もたぶんそうです」 「むむ、それはいけない。前から思っていたが、今世の九蔵は縦に長い割に少し細すぎる……! 容姿と魂は関係ないけれど器が貧相だと人間は死にやすいのだろう?」 「ひ、貧相……」 「これから毎日ギュードンを食べるのだよ!」  ショックを受ける九蔵をしり目に、ニコニコと喜色満面のニューイ。  顔だけでなくスタイルもいいこの悪魔様は、インドア派の密かなコンプレックスなんて無縁だ。くそうイケボディ。うらやまけしからん。 「はぁ……とりあえず牛丼と、もう一品あるからこれも食いな」 「ん? ん……っ!」 「? どした?」  内心のダメージを隠しつつ、九蔵はテーブルに乗ったサイドメニューのタッパーをおもむろに開く。  するとタッパーの中身を見たニューイが、突然キラキラと瞳を輝かせた。  今度は九蔵が首を傾げる。  なぜそんなに嬉しそうなのだろうか。中身はなんの変哲もないただのだし巻き玉子なのだが。アレルギーなのか?  そう思った九蔵がなにかを言う前に──ニューイは花が咲くような華々しさで、ヘニョリと頬を綻ばせた。 「ふふふ……やはり、九蔵は知っていてくれたじゃないか」 「ぅへ」  ドキ、と心臓がうるさくなる。  変な声が出た。迂闊に直視していいものじゃない。屈託のない笑顔だ。あぁ、心臓がどんどんうるさくなる。  イケメンというものはやはり九蔵の思考を狂わせ、いつだってマヌケなポンコツにしてしまう眩い存在。 「私の好きな食べ物は〝たまご〟なのだよ!」  ──あー……知ってたんじゃなくて、たまたま買ってきただけなんだけど。 「……うん。それは、ようござんすね」  口にする予定だった言葉をゴクンと飲み込み、九蔵はなんの意味もない相槌を打って、曖昧な笑みを浮かべた。  いや、自分でもなぜかわからない。  偶然を知られてガッカリされたくないなんて……どうしてそう思ったのか。 「? どうかしたかい?」 「なんでもねーですー……」  自分はやはりニューイが言うほどキレイな魂の持ち主ではないと、九蔵は桃色の頬でそそくさと箸を進めながら喉の奥でごちた。

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