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様子のおかしい九蔵に首を傾げたニューイは、九蔵のなんでもないを素直に受け取りニコニコと食事を再開する。
会話も頑張りつつ(牛丼とだし巻き玉子と九蔵を褒めちぎるニューイの話にうんうんと返事をしていただけだ)和やかに進むディナータイム。
「九蔵」
「どした?」
ふと、ニューイが首を傾げた。
九蔵も箸を止めてニューイを見つめる。こうして焦点をズラして見つめることにも慣れた。傍から見るとちゃんと見つめあっているように見えるだろう。完璧だ。
「今日はよく話してくれて、私はとても嬉しいである。九蔵は私が嫌いなわけじゃないのだと、ようやく自信が持てそうだよ」
「うん」
「しかし一つ疑問なのだが……どうして九蔵は私と目を合わせてくれないんだい?」
「…………」
「仲直りしたあとなのに、さっきも私から目を逸らしたようだが」
「…………」
完璧じゃなかったのか。
イケメン好きをユノ好きと解釈されて事なきを得たはずの危機がカムバックし、九蔵はギクッ、と肩を強ばらせた。
純粋な眼差しで不思議がるニューイの質問に、黙り込んだままタラタラと冷や汗を流して硬直する。
ニューイと目を合わせない理由は、もちろんシャイを拗らせた忍び系イケメンオタクの条件反射だ。
性格や人生経験とは別問題である。バイでメンクイな九蔵の性に過ぎない。
しかしそれはトップシークレット。
そこは性格や人生経験の問題で、おいそれと人に語れない秘めやかな趣味。
こうなったら笑って誤魔化せ!
「どうしたんだい? 九蔵」
「……ん、ん~……?」
「凄い汗だが……慌てなくても平気だぞ? 答えてくれるまで私は待つとも!」
「ん~~〜〜っ?」
全然笑って誤魔化せなかった九蔵は、冷や汗が滝のように湧いてでた。
もう開き直れ?
いやムリだ。言えるわけがない。
こんな冴えない男が、同じ男の、それもイケメンにのみ過剰反応するのだぞ?
細かく言うと突然崩れ落ちるか、ニヤケにニヤケまくった挙句に淡々と褒め称える奇妙な発作を起こすのだ。
圧倒的処刑タイムである。
死ねと言われたようなものだろう。
バカにされなくても面食われている本人に宣言するなんて死罪にも等しい黒歴史だ。死にたい。もう想像だけで死にたい。
とはいえニューイは待っている。
誤魔化すなんて、とてもとても。
九蔵とてもう今朝のように半端な態度で隠し続けた結果、最悪な形で傷つけるようなことはしたくなかった。
「……まぁ、お気になさらず。目ぇ合わせなくても死にませんしね」
「へむ」
結局、誤魔化す。
どうぞ骨なしチキンと罵っていただきたい九蔵の答えに、ニューイはへちゃむくれた声を上げてしょげた。なぜしょげる。九蔵は焦る。聞くとどうやらニューイは九蔵が怒ったと勘違いしたらしい。
「待て待てっ、違うっ。怒ってない。怒ってはないんです。はい」
「むっ? それならなぜ答えて……」
「お気になさらず」
「うっ……でもその、正直に言うと、私は九蔵と目を合わせたいし、頬にも触れたいのだ。事情があるなら理解するけれど、事情がわからなければ未練があり……どうだろう? ワケを教えてくれないかい?」
「おぎぁ」
真顔で悲鳴をあげた。指先をコネコネと胸の前で弄びながら上目遣いに一生懸命オネダリするニューイに、ガードの硬い九蔵も崩壊寸前のダメージを受けた。
わけもなく顔を近づけたり、なんでもするからと追いすがることはしない。
ここまで歩み寄られて否定するなんて鬼畜の所業すぎる。ムリだ。良心の呵責に耐えられそうにない。
「……はっ!」
「は?」
「あ、悪魔に人間の美醜は、繊細にはわからないのだ。大きさや性別くらいで……もし私の姿がキミには醜く見えるのなら、見るに堪えないと嫌悪してしまうのか?」
「は〜〜〜〜〜〜??」
無言でエマージェンシーを発する九蔵に、ニューイは突然ヒラメキを得たらしい。
キューンと切なく鳴いてなぜか真逆に走った結論を出された途端──バチコーンッ! とオンになる九蔵のオタクスイッチ。
「醜いとか有り得ねぇだろなに言ってんだお前さんの顔パーツ全部正解ですけど? ほら鏡見てきてみ国宝級に良すぎる顔面が優勝してるわだってもうキャーキャー言われるレベルじゃないですもん迂闊に近づけないくらい発光してますしこりゃ直視できませんね自信を持ってイケメンですはいニューイさんはイケメンです殿堂入りおめでとうっ!」
「むっ?」
「あ」
結果がこれだ。
脊髄反射で褒めたたえた自分を、脳内で「逝ってよしッ!」とブン殴った。
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