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 だって仕方ないじゃないか。  好みドストライクの顔面が「ブ男でごめんよ」としょげているんだぞ? 擁護しないわけがない。  九蔵はブン殴った脳内の自分を助け起こして観念する。こうなったら諦めて腹を括るしかあるまいて。 「…………んん」  箸をテーブルに置いてソッと正座で座り直すと、静かに深呼吸をした。 「まぁちょっと、アレな話を聞いてもらうけれども……ニューイはめちゃくちゃ、人間的にレベルの高い美形なのな」 「お、お……? 頭蓋骨が見えていないのに人間は判断がつくのだね。褒められると嬉しいよ。私はこの人間体にしかなれないので、悪くないのならいいことである!」 「うん。そうね」 「しかしそれではなぜ、九蔵は私と目を合わせてくれないんだい……?」 「それは俺が、メンクイだからだよ」 「麺食い?」 「顔のいい男、つまりイケメンが好きなんです。恋愛的な意味でも性的な意味でも」 「!」 「……お前の顔で興奮するから、あんまり見ないように避けてただけってこと。感じ悪くて、ごめんな」  シン……と静まり返る。  なるべくなんでもないように、されどはっきりと、裏側では緊張で喉が渇くほど勇気を振り絞った告白。  自分からは、本当にごくわずかな人にしか教えていない話だ。  人によっては嫌悪される。  人によっては笑われる。  相手にも事情や好みがあるので万人に受け入れてほしいとは思わないけれど、わざわざギャンブルはしたくない。  故にあまり人……というか、悪魔には言いたくなかった。  さて。バカにされるか、からかわれるか、気持ち悪がられるか、引かれるか。 (はぁ……どれでもニューイにされると、割とキツい感じするけどな……)  ひそかに膝に置いた手が震えた。腰の座りが悪い気がする。ニューイからは目を逸らし、意味もなく視線をうろつかせた。  ほんの数秒の沈黙だ。  思い出すのは、昔の話。  これまで二次元の存在以外の顔がいい同級生や通りすがりの通行人を、目で追いかけてしまったことは多々ある。  まるで恋をしているかのように、過剰に反応してしまったこともある。  けれど本人や周りの誰かにバレた時、たいていは愉快な反応をされたものだ。苦笑いしか浮かばない。黒歴史め。  ──ニューイはどう思うのだろう。  男のくせに同じ男の面の皮一枚にばかり目を向ける変なやつだと、揶揄されるのだろうか。  そう思うと顔が見れない。  キュ、と手を握る。 「お前が……お前がイケメンだから、俺はいちいち赤くもなるし、変なことを口走る。そんでイケメンにはだいたいテンション上がっちまうけど、それでみんながみんな恋愛的な意味で好きってわけでもないから……その、なんだ……お前に興奮するけど、襲うとか、セクハラとか、手を出したりはしねーよ。普通に、お前を見てるだけで満足なんだ。そ、そりゃ写真は撮ったけどさ。……あんま気にしねーでくれると、嬉しいんだけど……」  沈黙に耐えきれず、九蔵は無駄に言い訳を重ねた。  別に性的欲求に塗れたスケベ心から過剰反応してしまうわけじゃない。  しかしいつだって現実の相手は、ゲームの中の男のように讃えることを受け入れてくれなかった。  悪魔も例外ではないのかも。  ソワソワと落ち着かなくて、重く俯いていた顔をあげてみる。  するとなぜか──目の前のニューイは自分の顔をペタペタと触り、みょーんとつまんだ頬を伸ばしていた。 「…………」 「イケメンというのは、固有名詞ではなかったのか……対象は広く、主に魅力的な男を指す形容詞だったとは……」 「…………」 「というか姿だけとはいえ、私は九蔵の好みだったと……えへっ」 「…………」  この悪魔様は人のシリアスな告白を聞いて、いったいなにをしているんだ。  九蔵は目が点になったが、最終的にニヘラァ〜と溶け落ちそうな甘い歓喜で笑ったニューイに、点になった目がポーン! と飛んでいった。  ……どうやらニューイは、九蔵の趣味を聞いても全然構わなかったらしい。  むしろ見た目だけでも九蔵の好みの人間だったことを、大いに喜んでいる。 (っ……う、わ……)  これはヤバイ。  すこぶーる、嬉しい。  ニューイといると、そういう世間体というか、人目を気にする平均平凡でいたい自分がバカらしくて気が抜ける。 「はは。お前ほんと、いい男だよ」 「むへっ……!?」  九蔵はニマ、と密やかに笑い、赤くなった頬を震えのなくなった手の甲で擦った。

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