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  ◇ ◇ ◇  つつがなく食事を終えると、就寝時間がやってきた。 「ニューイ、おやすみ」 「九蔵、おやすみ。なのだよ」  真っ暗な部屋の中で大柄な男二人が窮屈なシングルベッドに身を寄せ合い、ご丁寧にあいさつをしてからまぶたを閉じて眠る。 (今日はいろいろあったな……)  まぶたの裏側を見ながら今日を思い出し、九蔵は穏やかな息を吐いた。  ──ニューイ。  久しぶりに、距離を近づけてよかった、と思えた相手だ。  九蔵はあまり人とのコミュニケーションや意見交換が上手くないので、傷つけちまったけれど、同じベッドで眠っている。 (ニューイは、俺のめんどくさいとこ……別にかまわねーんだもんな……)  変な悪魔だ。  九蔵はニマ、と口角を上げる。気は凪いでいた。久方ぶりの安寧だ。  近頃は他人の体温に居心地の悪さを感じて、寝つきも夢見も悪かった。けれど今夜はよく眠れそうだと確信し、九蔵は意識を夢の中へ沈めていく。  いや──いこうとした。  まぶたを閉じて、数十分。  カチカチと刻まれる秒針の音。 「…………」  全く、眠れない。  モソリと身じろぐ。その理由にはあてがあった。  下半身から拭えない違和感。具体的にはこう、安心しすぎたからかなんなのか、ムラムラして眠れないというか、なんというか。  もっとわかりやすく恥を忍んで明確に文字にすると、だ。 (勃起が止まりません……ッ!)  こういうことである。  信じ難い現実に、九蔵はまぶたの裏を見つめて絶望した。寝たフリをしたところで盛り上がった股間は静まらない。息子がパリピで九蔵は死にそうだ。  いや嘘だろと。そりゃまあ一週間以上シてねーけども嘘だろと。必死に現実逃避をしてみるが、現実は非情である。  九蔵はそっとまぶたを開き、虚無感に満ちた双眸で深夜の色に染まった天井をホゲーと見つめた。  まぁ確かに、あり得なくはない。  メンクイのまだ若い男である自分が悩み事が解消された清々しい気分でイケメンと同衾すると、溜まっていた性欲が本腰を入れたっておかしくはないだろう。  九蔵はそう自分を納得させようとする。  しかし客観視すると、どうあがいてもただのイケメンに添い寝されて勃起が収まらないアレなバイだ。しんどすぎる。  九蔵は股間にテントを張ったまま、頭を抱えた。  思い返せば最近よく見る謎の闇に体の奥のよくわからないものを弄ばれる夢もそういう欲求不満からきていたのかもしれない。  夜色に沈む部屋の中。  秒針の音が、カチ、カチ、と鳴っている。マラソン中の長針は、眠ろうと目を瞑った時から一周分を走っていた。  視線だけで隣を伺う。  姿勢よく直立不動のまままぶたを閉じているニューイ。何事もなくしっかり眠っているらしい。  顔の良さも変わりない。寝顔が悪魔なのに神々しい。隠し撮りしたい衝動をぐっとモラルを思い出してこらえる。 「…………」  こらえたものの、視線は逸らせない。  ニューイの寝顔にはいつも背を向けていたので、初めて直視した。  好みの顔を直視したおかげで、九蔵のはしたない部分のザワつきがピクリと増す。最悪だ。罪悪感が凄い。しかし抑えられない。眠れもしない。 「……っし」  九蔵は覚悟を決めるとゴクリと唾を飲み、細心の注意を払ってそーっと上体を起こした。我慢できないのならば──処理するしかないだろう。  このままではニューイにバレて死にたくなるオチが目に見えている。やるしかないのだ。

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