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ベッドヘッドに設置しているティッシュボックスの中身へ手を伸ばし、九蔵は在庫を確認した。
トイレへ行くにはニューイを跨がなければならない。
もしその動きでニューイが起きてしまったら? 九蔵はドストライクイケメンの宝石じみた瞳に痴漢、もしくは変態として映る。
そんなことは御免こうむった。
言い訳が思いつかない。根本的にこちとら不器用なのだ。
なら月明かりもない部屋の中で密かに処理してしまうのが、最良の解決法だろう。
そう決めた九蔵はベッドに座った状態で気持ち片膝を立て、ニューイサイドから股間をガードしつつ寝巻きと下着をズラした。
たおやかな布の隙間から、すでに緩く勃起している逸物がゆらりと鎌首を揺らす。空気を読まないダメ息子は相当溜まっていたようだ。
「……ン……」
九蔵は自分の性器を恨みがましく睨み、指を絡めてなるべく機械的に手淫を始めた。遊びはなし。達することに集中しよう。
心に決めてヌメリを帯びた肉茎をクチュ、クチュと絞るようにゆっくり扱く。
蜜を手にからめて、摩擦を軽減。
ああ、陰嚢から根元を揉むのが心地いい。陰茎は昂り、すぐに脈動する。
上下にゆるく擦ると、むき出しの白い太ももの間で赤く腫れた勃起が卑猥に天をむいている様がよく見えた。
「ふっ……」
はしたない様だ。
カァ……と頬が熱を増す。
それでも手は止まらず、次第に速度を増した。粘液をまとった手が茂みに触れ、そしてまた先端へと絞る。その往復だ。
「……は……」
栗色の髪が額をくすぐった。抗えない快感を感じ始めて、熱を帯びた出不精の白い肌が身震いする。
自身を慰める手と逆の手で口元を覆い、自らを追い詰めていく。
九蔵はク、と唇を噛む。
傍から見ると恥ずかしい男に違いない。けれど九蔵は至って真剣だ。
自らを絶頂へと追い立て、早く終わらせようと弱い部分ばかりを強く擦った。
「は……は……」
静かに、粛々と。ただ一つの気配なく無機質な肉塊になったのだと、自分に言い聞かせてほとんど鳴かず高ぶっていく。
けれどイイところに指が掠りピクン、と反射的に筋肉が弾めば、甘い吐息が「んっ……」と手の中で響いた。
だが、その程度だ。
気配に過敏な人なら目を覚ましたかもしれないが、まずもってそんなことはないだろう。それほど細心の注意を払い、九蔵は幾日ぶりの性欲の発散に従事する。
(やべ、気持ちぃ……)
クチン、と蜜が手と粘膜の間でかき混ぜられ、卑猥に鳴った。
ところどころ黒く染みたグレーの下着からそそりたつ勃起は、九蔵の骨ばった手の中でしとどに濡れている。
いい具合に育った。いくばくもないうちに上り詰めた精を迸らせ、この肝試しは大団円のうちに幕を下ろすはず。
「……ふ……く、ふっ……」
そう確信し、九蔵はカリ首の裏をコリコリと引っ掻き、自分の指を軽く歯先で咥えて快楽を貪った。
まぶたを閉じたまま浸る。腿に力が入り、筋肉が痙攣する。はぁ、はぁ、と桃色の吐息が指の隙間から溢れ、絶頂に向けて頭の中に興奮する妄想を描いていく──……が。
「あー……イキそ……イク……」
「うーん……人間の男の自慰行為は初めて見たのだが、私ならもっと気持ちよくイかせてあげられるかもしれないぞ……」
「ん、んっ……?」
「よし。仲直り記念に、ほんのちょこっとだけ手伝ってもいいかい?」
「いいけど、…………え?」
なにかいた。
聞こえるはずがない自分以外の存在の声に、九蔵はギギ、ギ、と壊れたブリキ人形のような動きで首を捻る。
そこにいたのは、笑顔の悪魔。
「うむ。任された!」
「ちょまッ……い、いつッ!?」
隣で眠っていたはずが体育座りでニコニコしているニューイを前に、九蔵はビクゥッ! と身を跳ねさせた。
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