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「いや、おまっ……な、なん……っ」  驚愕のあまり言葉にならない。  あぁもうイキそびれた……じゃなくて、きちんと眠っていることを確認したのになぜニューイが起きているのか。  混乱で思考がまとまらない九蔵に対し、当のニューイは気にしちゃいない。  匂いが濃すぎて起きてしまったと言うが、まだ出していないのになんの匂いで起きたのだろう。 「それはもちろん欲望の」 「つかなっんでお前こんなの無言で見てたのかねっ。見てんなら言えっ。いや、言われても困るけど……!」 「むっ?」 「ブラジルまで穴掘って逃げてー……っクソ、アホ、バカ、ドジ犬っ」 「なぜ!?」 「それがわかったら人間度ワンナップですよっ。深夜のオ✕ニーガン見される趣味なんかねーのに、もう……あーもうッ」 「えぇぇぇ……!?」  ガビンッ! とショックを受けるニューイ。カァァァ……ッと官能により火照った体が更に熱を増して、九蔵は頭から足先まで余すところなく真っ赤に茹で上がった。  膝小僧に額を当てて、死にたい死にたいと何度も頭の中で唱える。  なのにニューイはなぜ怒られたのかわからないらしい。九蔵はガクリと項垂れる。 「嘘だろお前……」 「え、えと、九蔵は恥ずかしがっているみたいだが、大丈夫だぞ? むしろ嬉しい」 「は?」 「私は人間の魂や欲望を食べる悪魔なのだ。だから実は、九蔵の醸し出す肉欲……性気もごちそうなのだよ」 「ぅわっ……」  ニューイはそう言いながら不意に真玉のような手を伸ばし、九蔵の身体をグッと抱き寄せた。  途端、熱を持った肩が、ニューイのたくましい胸板に触れる。その体温にドクンと心臓が高鳴る。  しかし気を取られたのも一瞬。 「っひ……っ!?」  ニューイの手に肩を強く握りこまれるやいなや──九蔵の喉から、反射的に音の高い悲鳴が漏れてしまった。  恐怖からではない。  強烈だが確かに、しぼみつつあったはずの官能由来のものである。  それはつまり、九蔵は肩を握られただけで感じてしまったということだ。 「ちょ、ニューイっ」 「ムフフ。こうして触れると気持ちいいだろう? 感じてイキたいと欲を持つと、それが人間には見えないモヤになって溢れ出す」 「ぁっ……う、っ」  ニューイが軽く力を込めただけで、ピクン、ピクンと筋肉がしなった。  慌てて確認すると、真横から抱き寄せているニューイの指が九蔵の肩の肉の内へズブリと埋まっている。いや、刺さっている。  粘土人形をこねるように、確かに深々とニューイの指が刺さっていた。 (肩の中、触られて……んの、か……っ?) 「これができるから、私のほうがキミを気持ちよくできると思ったのだ」 「……っ、ふ……」  九蔵はフルリと震えた。  痛みも傷もない。血だって出ていない。  なのに寝間着ごと貫通し肉の中へ侵入を果たしている指は、内側のなにかに触れているようだ。そしてその指がそのなにかをこねると、なぜか、気持ちがいい。  体の中から性器に繋がる官能線を揉まれているように、直接的な快楽を感じる。 「ンッ……く……」  酷いデジャブを感じた。他人が自分の内部をまさぐり、自分でもこれと確信できない身体の芯を淫猥な手つきで弄ぶ感覚。  これはまるで、最近繰り返し見る夢の行為のようじゃないか? 「これ……ゆ、夢じゃなか、った、のか……? ニューイ、お前……」 「っバ、バレ……!?」 「ぅあっ」  今日という日の最後の最後。  ハマり始めたピースを組み立てた九蔵は、口角をヒクヒクと引きつらせ、引き攣った笑顔でニューイを伺った。  もちろん気持ち焦点は避けたとも。

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