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それから一週間が経った。
悪魔式の遊園地にダブルデートへ行った日から一週間ほどが経過したということは、九蔵とニューイが婚約をしてから一週間が経ったということでもある。
そう、あの日。
相変わらずニューイに抱きしめられて眠った九蔵は、きっとニューイが遊園地で見せた態度と同じように浮かれていることだろうと思っていた。
きっと胸が痛くなる。
キュっと引き絞られ、甘い蜜でコーティングされて窒息してしまうような時間が始まる。
そう思っていたが、ニューイは意外にも、九蔵の予想したほど愛に歓喜するポンコツにはならなかったのだ。
いやまあ、確かに浮かれてはいる。
というか、九蔵をよく抱きしめる。
抱きかかえるし、抱き上げて匂いを嗅ぐ。悪魔のしっぽがニョロリニョロリとうねる程度には上機嫌だろう。
しかし、言葉はいつも通りだった。
それに婚約したからには結婚するわけだが、それも「黒魔術に近い契約でね。少し準備が必要だから、九蔵は待っていてほしい」と言われて保留されている。
確かに喜んでいるニューイ。
ただ、拍子抜けだ。
〝お姫様 のおこぼれなんて嫌だ〟
〝お前にとってなんの付加価値もない俺を、わざわざ選んで愛してくれ〟
〝俺だから愛していると〟
〝俺をお前のお姫様にすると〟
〝そう言って愛してくれなきゃ、永遠の片想いなんて耐えられねぇんだよ〟
そういう自分のちっぽけな我欲や熱望より、九蔵は底抜けに一途な王子様の恋を、叶えることにした。
覚悟を決めたわけだ。
だから王子はきっと随喜の極地にいたって幸せを表すのだろう、と予想したのだが──ニューイは相変わらず、のんびり屋のままらしい。
それが悪いわけじゃないけれど……腑には、落ちないような。
「まぁ、喜ぶだろう、でやったことだから、あいつの本当の気持ちなんか確認してねぇしな……」
バイトに行くべく身支度を整えながら、洗面所で一人、九蔵は渋い顔をして歩き出した。
「九蔵っ」
「っと」
居間に戻ると、待ってましたとばかりにニューイがしがみつく。
ニューイは九蔵と増して離れるのが嫌らしく、言葉にはしないが落ち着きがない。
それに嬉しそうにしていたかと思えば、なにかを思い出したように落ち込みカラコロと頭蓋を鳴らしたり、遠くを見つめてはぼんやりしている時もあった。
理由がわからないので、九蔵はしがみつく大きなニューイをヨシヨシとなでる。
「うう……もうアルバイトに行ってしまうのだな……お金ならたくさんあるのだが……」
「はいはい。俺は億万長者になったとしても働く男ですのでね」
「待ち受けとロック画面の九蔵を眺めているだけじゃ、物足りないのである……」
「それもう設定するとこないよな」
「でも、でも、あの、夜道は危険だから、送り届けようか?」
「帰りが心配だから遠慮します」
あの手この手で引き止めたがるニューイをなだめすかし、九蔵は玄関に向かった。
土間でトントンと靴を整えながら、見送りに着いてきたニューイを振り返る。
「じゃ、行ってくるな。今日は夜勤だから遅くなる。ちゃんと寝てろよ」
「うむ。わかったのだ」
ニューイは返事をしながら最後とばかりに九蔵に抱き着いた。
離れがたいようにしがみつくからには、真意はどうあれきちんと好かれているらしい。由来はさておきこれは間違いない。
「行ってらっしゃい、九蔵。今日もキミの帰りを心待ちにしている」
「ありがと。行ってきます」
ガチャ、とドアを開く。
「……あの」
「ん?」
ふと、呼び止められて再度振り向けば、ニューイは少し俯き、九蔵をオドオドと伺っていた。
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