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 それでも何事もなかったかのようにズーズィと仲良くしているのを見ると、逆にスゲーな、と九蔵はいっそ感心した。  九蔵からすると、それだけ怒っていたのに今はズーズィと仲直りしているなんて信じられない現象だ。  九蔵はニューイとたった一度喧嘩しただけで家に帰ることすら億劫だった。  平然と会話して遊園地の誘いをかけることなんて、死んでもできやしないだろう。  もしそのくらい言いたいことが言えれば。喧嘩をしても仲直りができるのであれば。  きっと自分ももう少し、ニューイにワガママが言える。ような気がする。 「? 仲直りとかしてないスけど。てか俺ら喧嘩してねース」 「マジでか」 「マジス。お互い気に食わないこと言い合っただけスね」  そんな下心から勉強のつもりでさり気なく尋ねてみたがあっさりと返され、九蔵は目を丸くした。 「気に食わないことって、不満じゃねぇの?」 「不満スよ? だから言うッス。まあ性格ありますけど、俺とズーズィはあんま遠慮とかしねーし気にもしねーから言ったほうがイイスね」 「な、なるほど……」  性格か。なら自分には向いていない。九蔵は気持ち肩を丸くする。  それからふと、思い至った。  そういえば、不満をすぐに言う澄央と自分は喧嘩をしたことがない。ということは、我慢をさせているのだろうか。 「ノーッス。それは俺が文句言ってもココさんが俺に文句言わねーからスね。つまり、ココさんがおかしいんスよ」 「俺?」  ジロリと睨まれ、首を傾げる。 「俺ってマジで割とワガママっ子ス。それに、恋愛感情抜きで仲のいい男って貴重なんス。だから、ココさんは大事なんスよ」  澄央は「そんでついスキンシップ過多だったり、甘えたり、新参を警戒したり、文句言ったりしちゃうス」と言った。  普通はそれらに怒るらしい。  鬱陶しがってしかるべきだと。 「んー……でもそれは、俺にナス以外友達がいねぇからかもだけど……気にしてねぇから文句言わねぇかな」 「はぁ……それっスね」 「え?」  それ、とは。カシカシと後頭部をかいていた手を止める。 「この際だから言うんスけど、ココさんってなーんでそんな器用なんスか?」  普段から真顔な澄央だが、今は真剣味をプラスした表情で九蔵を見つめた。  思わずたじろぐ。自分では不器用だと思っているのだが。  そう言うと、澄央は「いーや。器用だから不器用なんスよ。俺名探偵の曾孫のマブなんで」としみじみ否定した。 「今日、久々会ったスけど元気ねぇッス」 「あー……夜勤だからな」 「ほら。俺が気づいてたら理由言うまで逃がさねーから、嘘じゃない程度のそれっぽい理由で誤魔化す。なんでもねーって誤魔化すと俺が嫌がるからでしょ」 「っ?」  図星だ。流石に表情に驚愕が出てしまった。確かに、本当はニューイのことで悩んでいる。けれど夜勤のせいで眠いのも本当だ。  別に特別気にしてそうしているわけじゃないが、頭の中で軽く考えてから話す癖があった。 「や、でもそれはな……」 「言い訳無用。俺が文句言っても怒らねーで謝るのも、本当は〝俺に嫌われたくないから〟じゃねーんスか」 「うっ……」  またしても、図星。  自分の性格が紐解かれていくのは恥ずかしく、九蔵は居心地悪くどもってしまう。  澄央はほら見たことか、と言わんばかりに仁王立ちで九蔵の顔をのぞきこんだ。 「ココさんは〝澄央に嫌われる〟と〝澄央の文句を許容する〟を天秤にかけて、嫌われるよりマシだから俺の文句で怒らねーんスよ」 「……お前、むしろ名探偵本人か……」  自分でも気づかなかった弱いところまで暴かれると、九蔵はもう下手くそな笑顔で認めることしかできなかった。

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