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一緒に遊ぼう、と声をかけた。
いいよ、と言った悪魔たちは、単純なニューイを騙したりからかったり虐めて、べそをかくと楽しそうに笑う。
ズーズィだけは遊んでくれたものの、彼とて、眠たいほがらかな雰囲気の良さなどてんでわからないノーマルな悪魔だ。
手に手を取って仲良く遊ぶことはできず、ニューイはやっぱりひとりぼっちで屋敷に帰ることになる。
心が育って、大人になった。
ニューイは一人、考えた。
──力で奪い合うより分け合って寄り添いたい私は、きっと悪魔に向いていないのだろう。
──私は悪魔として生まれたのに、きっと悪魔に向いていないのだろう。
──なら……私はどうやって、悪魔の世界を生きていけばいいのだろうか。
『この屋敷は、とても広いな……』
ポロポロ、ポロポロと。
骨が剥き出しの両手で角の生えた頭蓋骨を抱き、黒い翼で全身を包み込んで、バケモノの尾をくねらせながら、月の青い夜に、ニューイは泣いた。
悪魔の生は、長すぎた。
優しい悪魔には、長すぎた。
悪魔に生まれついたのに、悪魔に不向きな自分の心。悪魔として生きることがとても辛く、寂しい柔らかな自分の心。
まるで生きていてはいけないと言われていると感じるほど、長かったのだ。
それから、月日は流れる。
日がなぼんやりと暮らしていたある日、ニューイは、人間の少女と出会った。
ニューイは人間が好きだ。
悪魔でダメなら、人間に希望を見てはどうだろう。これは、思いつきでしかない。
一抹の希望を抱いて、ニューイは弄ばれ続けていた手を差し出し、人間の少女に言った。
『わ、私と、友達になってくださいっ』
『うん。いいよ』
その瞬間──世界が、色付いた。
不思議な人間、イチルは、悪魔であるニューイを差別しない。自分を削ってでも労り、優しくするだけ優しさを返してくれる。
それに、イチルは強かった。人を助けて、悪魔の世界にやってきたと言う。
少女であっても、弱くはないイチル。
立ち振る舞いも姿も心も、ニューイより強かだ。ニューイがべそをかくたび、イチルは柔らかい手で大きな体を抱きしめ、頭をなでる。
家事や裁縫なんかはできないと言っていたが、そんなことは関係ない。
かっこよくて優しいイチルは、どこもかしこも魅力的でドキドキしたものだ。
『そういう素直なところが、お前のいいところだね。ニューイ』
イチルは、ニューイをよく褒めた。
ニューイの素晴らしいところを拾い集めては、笑顔で伝える。ニューイを抱きしめ、キスを送る。甘い言葉をいくつも贈る。
『約束しよう、ニューイ。私が私であるかぎりニューイだけを一番に愛するし、ニューイも私だけを一番に愛してね。そうしたらずっと、私たちは一人ぼっちにならないだろう?』
イチルは、ニューイを愛した。
終わりを忘れたニューイのそばで、寿命と共に亡くなってしまうその時まで、ずっと。
約束を守って、愛し続けた。
『あぁ、幸せだ……! イチルがやってきてから、私は毎日幸せだ! それに、キミには姿が老いない呪いを掛けている。これからも毎日、幸せは続くのだ』
『幸せそうだね、ニューイ』
『もちろん。毎日が幸せすぎて、キミがきてから時間が過ぎるのがあっという間なのだよ!』
『そうだなぁ。ここにきてどのくらいか……私も、よく覚えていないな』
アルバムを捲るように辿っていく、イチルとの記憶。会話。彼女の声と、表情。
あの頃、イチルの全てがニューイに刷り込まれ、まるで一目惚れをした乙女のように想いを馳せることをやめられなかった。
ニューイにとって、イチルは間違いなく愛おしい王子様だったのだ。
「イチル……」
墓石に額を預けるニューイは、おとぎ話の日々の思い出を振り返りながら今に帰還し、眉根を寄せて息を吐く。
「どうして、忘れたフリ をしたんだい?」
記憶の古いフィルムに映るイチルの笑顔に、ニューイは泣きそうな声で尋ねた。
本当は、自分の寿命が尽きそうなことをわかっていたのに。
どうして、忘れたフリを。
幸福の終わりを選んだのか。
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