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「なんて……キミを泣かせた私には、言えたことじゃないのだがな……」
うつ伏せに丸くなった九蔵をベッドに押し付けるよう、力強く抱きしめる腕。
身動きしようにも逃れられず、振り向くこともできなかった。ただ、振り向かなくても正体は明白だ。
「ニュ、イ」
「うん。帰ってきた」
「ど、どうして……」
「九蔵に、話があるんだ」
「はっ……?」
「キミをたくさん苦しめてごめんよ……私が臆病者のクソ悪魔なせいでなにも言えず、キミをずいぶん不安にさせて、キミの心を踏みにじって、本当にすまなかった……」
真摯に謝り首筋に顔を埋めるニューイ。
ほんの微かに、グス、と鼻を鳴らす。
(な……泣いて……っ)
九蔵はビクッ、と身を硬直させた。
ニューイが泣いている。
よく泣くニューイだが、これは弾みでこぼれたものではなく本気だ。
まるで泣くことが罪だとして隠蔽しようとしているような、静かな泣き方。しがみつく腕が微かに震えている。
「私の話を、聞いてほしい……」
「な……泣くなよ、ニューイ……話は聞くから、泣かねーで……」
「酷いことをしておいて虫のいい話だと自覚があるが……キミに話すこと、謝ることがたくさんあるのだ……」
「ちょっと、ちょっと待って……」
九蔵の頭は混乱の嵐に襲われた。
理由はわからないが嫌になって消えてしまったのでは? それとも連絡が遅くなっただけで、トラブルに巻き込まれていた?
ならなぜ、痛ましく泣いているのか。
「頼むよ……俺、泣いてねーから、さ……お前のせいなんかじゃねーんだ。本当に、お前が泣くようなことなんかなにも……」
「泣いていないよ……キミを前にして泣く権利なんて、私にはないのだ……」
「でも、お前……」
「一人で泣かせて、すまなかった」
混乱を極めた九蔵は、どうにかニューイの涙を止めようとしてみた。
しかしニューイは嗚咽をこらえて否定する。九蔵の頭をなでてグリグリとすりつき、冷たい体を温めようとする。
まるで九蔵の涙が一大事かのように、ニューイは九蔵を温める。
喉奥がヒクン、と震える。
そんなことを言われると、もう泣いていないのに……九蔵は、ガラスの虚勢が壊れてしまいそうになった。
「俺だって、泣いてねぇよ……」
「そうかい。でも、泣いてもいいのだよ」
「バカ、よくないだろ……」
「いいのだ。泣き虫の正しい鳴き方は、一人で泣かないこと。だから……九蔵のそばに、私はいるよ」
「ぁ……そ、っ……」
そばに、いると。
小さな言葉で涙が溢れて、シーツがどんどん湿っていった。
それだけで精一杯なのに、言葉をなくして震えていく九蔵を大切に抱きしめるニューイは、覚悟を決めた声で酷いことを言うのだ。
「大事な話を、聞いてほしい。手酷く詰って構わない。例えキミが私を憎く思い殺そうとしても、喜んで刃を受け入れる。だが……私の心は、変わらない」
「…………」
「私は、個々残 九蔵を愛している」
「っ……」
──愛している。
確かに聞こえたそれは、待ちに待った最も欲しい言葉だった。
全身に駆け巡る熱。幸福感。信じられないくらいの恍惚に満ちた瞬間。
「う……嘘だぁ……っ」
「っ? く、九蔵」
意味を理解した九蔵は、ニューイの腕の中で必死に首を横に振って抗った。
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