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 嘘だ、嘘だ。こんな都合のいい言葉は、嘘に決まっている。  きっとこれもぬか喜び。またイチルと重ねて、うっかり言っているだけ。もしくは泣いているから慰めに言っただけのこと。期待してはいけない。 (わかってんのに……っお前がそんなことすると……俺はバカになっちまうよ……っ)  嬉しすぎると、怖くなる。  なのに、喜んでしまうから。  手を離すなら繋がないで。  餌を与えるならきちんと飼って。  それができないなら、早く捨てて。 「嘘だよ、嘘だよぉ……っお前は俺に恋なんかしないのに、なんでそんなこと言うんだ、バカ……っバァカ……っ」  必死に祈る。  愚かな自分だと呆れた。 「あ……っわた、私のことは、許せないかいっ? それとも私のことなんか、もう好きじゃないかな……?」 「知らねぇよ、もぅ……っ」  ニューイが死にそうな声で縋るが、色良い返事をできない。  手の届かない恋に夢中で泣いていたくせに、どうぞと差し出されたらバカみたいに嬉しくて、嬉しいから拒絶する。  ちゃんと〝ニューイはこんなに器用な声で嘘を言わない〟とわかっていて、信じられるニューイの真実だからこそ。 「か……構わないよ。九蔵が私を嫌っても、私は九蔵を愛しているから……」 (好きだよ……っ愛してるっ……!)  とてもとても胸がドキドキしていて天にものぼりそうだから、九蔵は念のために、一生懸命否定するのだ。  だが、そんな九蔵のなかなか面倒で難儀な心は、いつだってニューイによって解されてきた。  ありのままの丸裸で心からぶつかるニューイの前だと、九蔵はいつも、隠していた内側をさらけだしてしまう。 「お前、なんで俺が泣いた時に限って、静かにドアから入ってくんの……っ」 「ご、ごめんよっ」 「なんで俺の弱っちいとこ、いちいち見つけて抱きしめんの……っ」 「ごめん……でも、でもキミが泣いているのを見つけたら、いてもたってもいられなくてっ……」 「一人で泣くのなんか、慣れてるし……っ一人じゃねーと、泣けねーのに……っ」 「そっそんなことに慣れないでおくれ……っ」  ニューイはギュッと柔らかく、九蔵を抱きしめる腕に力を込めた。  そして切なげに震えた声音を、嘘偽りなく純粋に響かせる。 「私のこと、もう愛していなくてもいいのだ……けれど、九蔵が泣く時、私はそばにいたいよ……」 「っ……! な、なんで……っお前は俺のこと、簡単に泣かせちまうんだよ〜……っ」 「九蔵……っ」  九蔵はバタバタと暴れてニューイの腕の中から這い出ると、ベッドによじ登ってニューイに背を向け、丸くなった。 「九蔵、九蔵? こっちを見て」 「嫌だ、嫌だっ」  ニューイはオロオロと慌てながらも、なんとか九蔵に想いを信じてもらおうと言葉を重ね、追いかける。  失敗をたくさんしたにも関わらず、九蔵を諦めずにトライするニューイ。 (お前のそういうとこが好き、好きだ、好きだよ、めちゃくちゃ好きだ……っでも、でももしまた違ったら……怖い……っ) 「頼むから、二番目なら愛してるとか言うんじゃねぇっ……だってもう、絶対我慢できねぇよ……っ」 「九蔵、二番目じゃないっ。キミの魂がもし全く変わってしまっても、私はキミを変わらず愛しているっ……」 「嫌だっ。嘘だっ。こんなクソつまらん上にめんどくせぇコミュ障フリーターキモ男、誰が好きになるんだってぇのっ……!」 「ここにいる! 私はそんな九蔵が心の底から愛おしいと思っているのだ!」 「うっせぇな! お前の愛してるより俺の愛してるのほうがでけぇんだよっ!」 「っ!」  触れそうで触れない距離で手を伸ばしてはグッとこらえるニューイの訴えを退け、九蔵はモゾモゾとベッドによじ登り丸くなった。

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