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  ◇ ◇ ◇  さて、翌朝。 「う、うーむ……一番が二人ではいけないルールはないが……こう、過去の一番、今の一番……別物だからキミはナンバーワンさ、なんて都合のいい男は、如何なものかと……」 「同時に恋してるわけじゃねーんだからいいんです。お前が今一番好きなのは誰ですか」 「九蔵である」 「ハッピーエンド。はよ、ニューイ」 「う、うむっ。おはよう九蔵」  寝起き一発真剣に悩む悪魔の背中を見つけて、九蔵は眠気まなこをしばたかせつつ、サクッと解決した。  まったく。ニューイはいつも朝っぱらから問題を起こす。  昨日は夜明けに眠ったので今は昼だが、ロマンスの欠けらもない男だ。  一応初めての恋人で初めての彼氏。お付き合い初日の寝起きシチュエーションであるものの、ニューイから甘さを感じない。  それは仕方ないことだ。  稀代のイケメンだが、ニューイにカッコイイところは顔くらいしかない。あとはほぼカワイイ。  ドジっ子で素直でヘタレで天然で子犬系で一生懸命で、なんせ世話を焼きたくなるカワイイ男。 (ま、見た目とミスマッチな残念なところも好きなんですけどねぇ……。……オイコラ。浮かれてんのか、俺よ)  息をするように自分の彼氏は素晴らしいと思った脳へ待ったをかけ、九蔵はムクリと起き上がった。  無言のまま洗面所に直行し、冷たい水で熱くなった顔を洗って、ガラガラペッとうがいをする。  よし。乙女ぶった顔じゃない。  これなら平然をよそおえる。  交際一日目のデレとか知りませんけど? なにか? とでも言わんばかりのノーマル顔になった九蔵は、部屋に戻る。  するとうまく焼けたらしいトーストをお皿に乗せていたニューイが、いそいそと九蔵のそばへやってきた。 「九蔵、九蔵」 「ん?」 「私としたことが、キミに言わなければならない大事なことを忘れていてね」 「っへ……!?」  途端、ニューイの言うことがなにか考えるより先に、九蔵は力強い腕に腰を抱かれる。  そして手馴れた動作で髪を撫でられたかと思うと、頭一つ大きなニューイが身をかがめ──チュ、と九蔵の唇に口付けた。 「おはよう、九蔵。私は今日もキミが愛しいのだが……どれくらい愛しているのか、おはようのハグで胸の鼓動を聞いてみるかい?」 「〜〜〜〜……っ!」  真っ赤な瞳でそれはもう愛おしそうに九蔵を見つめ、嬉しげにニコリと微笑むニューイ。  数秒くっついた唇はゆっくりと離れていったが、そういう問題ではない。せっかく冷ました九蔵の顔が、秋だというのに暑気にやられて発熱中だ。  ──……訂正しよう。  ニューイは間違いなく、イケメンだ。しかし息をするように砂糖漬けの言葉を余裕の表情で吐く、恋人専用の堕落マシンだ。  恋人ではなかった頃も当然のように甘やかし発言をしていたニューイだが、いざ恋人相手となれば、自重することなくフルスロットルだった。 (お、お前はロマンス俳優か……! てか恋人になったらガチでくんの、コイツ……!)  無自覚胸キュンテロ。  即刻封印すべし。  プルプルと震える九蔵がなにも反応しなくてもちっとも気にしないニューイは、九蔵の手を引いてテーブルに案内する。 「これに耐えてたイチル、何者だよ……」 「? 九蔵、朝食を作っておいたよ。今日は成功したのだ。トーストとカップスープであるっ」 「お、おう。ありがとな」 「さ、ここに座って一緒に食べよう!」 「膝だっ……!?」  ──なにはともあれ、大団円。  夢にまで見た王子様は、イケメンスマイルと甘い言葉で九蔵を乙女なお姫様にする、九蔵にメロメロな悪魔様である。  第三話 了

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