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第三.五話 酒に溺れて頭パーン

 お付き合い翌日。  ニューイと無事お付き合いに発展したことを、九蔵は律儀に澄央へ伝えた。  澄央は「おめでとうス」とお祝いしたあと、ズーズィに事の経緯をチクッたことをしれっと報告してきたので一悶着だ。  どういうことだとニューイに話を聞いたところ、お陰様でズーズィがニューイになにやら発破をかけて今に至るらしく、無罪とする。  ニューイはズーズィに結果を報告したようだが、長々と密かに溜め込んでいた九蔵へのラブを文字にして送ったため、鬼電をかけられしょげていた。  そして誰も言う相手がいなくなり、九蔵本人に語り始めたせいで九蔵がムシとなったことは、瑣末な問題だろう。  とりあえず、器用で不器用な純情二人のラブストーリーも、収まるところに収まった大団円なのであった。   ◇ ◇ ◇  某日・某居酒屋。 「えー……ということで、私どもがなんとかハッピーエンドを迎えましたご報告と、このたびたいへんお世話になりましたお二人への感謝を込めて……まぁ、ちょっとしたお食事会をすることになったわけですが……」 「…………」 「…………」  事前に予約をしておいた個室にて、九蔵はテーブルの向こう側から突き刺さる二対の視線に冷や汗を流していた。  和気あいあいとした周囲の個室の声に対して、こちらは料理も酒も出揃っているのに、実に厳しい目で見つめられている。  原因は、わかっていた。 「感謝……うむ。二人とも、本当にありがとう。おかげで私はイチルを愛する自分を認めたまま、九蔵を愛する今の自分も許してあげられた。ズーズィと真木茄 澄央がいてくれなければ、自分を認めてあげられなかっただろう。あのまま九蔵を手放していたかと思うと、ゾッとしないね……なんせ九蔵はこんなにカワイイ。クマがあって目付きが悪くなる目元もチャームポイントさ。跳ねた毛先すら愛くるしいよ。背丈は大きいのに痩せギスで不健康だが、ノープロブレム。そのままで十分魅力的だとも。けれどキミの体は少し肉をつけるともっとステキに輝くね。九蔵が望むならなんだって協力するよ。あぁ、だけどこれ以上私がキミを好きになってしまったら、部屋から出してあげられないかもしれない……困ったな……九蔵から目を離せなくて困るなんて、幸せな悩みごとだろう。あぁ九蔵、九蔵? キミを愛して、私は悩みごとをしている時すら幸せを感じるよ」  九蔵の腰を抱き寄せてピタリと寄り添う、こちらの超ド一途ロマンチスト悪魔ことニューイさん。  彼が桃色に頬を染めたハニカミスマイルで、ハチミツに砂糖を漬けたようなセリフを無自覚に吐き出しまくっているせいである。  初めは感謝の言葉だったはずが、スムーズに九蔵への賛辞とノロケに変化させるとは、流石堕落専門家ことニューイ。  他人が他人に睦言を囁く姿を見せつけられるズーズィと澄央は、絶賛独り身であることも加えて殺意マシマシなのだ。  当然、九蔵の顔面は茹でダコになる。  叫びたいほど恥ずかしい。  しかしそれより理想の王子系イケメンが激甘ボイスを無料配布してくれている上、そのイケメンが自分の恋人だという事実により、止められなかった。 「ニューイ、その国宝級の顔面に感謝するス。俺のエルボゥは鋭いスから、鼻血じゃ済まないスね」 「ニュっち、ボク今ものごっついイチルとお前がイチャコラ暮らしてた時の気持ち思い出してンだけどさ。あの時も陰毛に放火してやろうか何回か血迷ったわ」 「!? ニュ、ニューイ! ニューイさん! 今すぐ俺から離れろください!」 「へ……!?」  止められた。  全力で止められた。  止めるしかなかった。  顔面エルボゥに陰毛放火はいただけない! という一心で、九蔵は自分の欲望に打ち勝ち、ニューイからバッ! と離れた。  離れられたニューイはガーンとショックを受け寂しそうにしていたが、大事なものには変えられまい。

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