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それからズーズィに人前でのイチャイチャを禁じられたニューイは、シュンと拗ねてせめてと九蔵を膝に抱き抱えた。
しかし注文しただし巻き玉子を一口食べて、パァ、と笑顔になる。
美味しかったらしい。
ニッコニコだ。……うん。カワイイ。
そっとパシャリと撮影すると、二人からの視線が突き刺さってスマホをしまう。
交際開始で浮かれているのは、九蔵さんも同じであった。
「ふー……ま、とりあえずハッピーエンドおめでとうッス。見ててモダモダが半端なかったんで、俺は嬉しいスよ」
「それな。おめっとさーん!」
「あー、それは、ほんと。ありがとうな」
「うむ。ありがとうである!」
カツン、とグラスを合わせて、四人で乾杯する。
ニューイはオレンジジュース。九蔵はカルーアミルク。ズーズィは大吟醸で、澄央はウイスキー。
九蔵は勢いに乗って、一気に一杯目のグラスを飲み干した。
甘いミルクのお酒はうまい。
その甘さに反して割と度数が高かった気もするが、頭がポカンと沸騰したので気のせいだ。そうに違いない。
「あはっ……」
「「「え?」」」
タッチパネルを操作して二杯目を注文しながら、九蔵は突如吹き出した。
驚いた三人からペースが早いと言われるが、問題ないと取り合わない九蔵の頬は、すでにほんのり赤い。
待っている間に用意済みだった酒のグラスを持ち、またもグビグビと一気だ。
どぶろくをボトルで注文しておくなんて、気の利く誰かである。まだまだ飲もう。
「いや……開始二分で二杯一気て……」
「ん? お気になさらず」
「いやいや。なぁんかおかしいスけど、ココさんって結構イける口なんスか? 飲み会とかあんま来ないスから知らなかったスよ」
「うん。んふ……マジで、嬉しー」
「ナッスン、会話繋がってなくね?」
「ないスね」
「うぅん……九蔵? 気分は悪くないかい? お水ならここにあるよ」
「うん、うん。お水はいらない。俺は話、するかな……へへ。ナスとズーズィ〜……」
九蔵には、ヒソヒソする澄央とズーズィや心配そうなニューイの姿が見えていない。
ニヘラと笑う九蔵は、機嫌がいい。
人生で恋人ができたのは初めてだ。恋人と同伴で、友達に報告するのも初めてだ。
「俺、お前らのこと、好き」
うひ、と歯を見せて笑う九蔵。
その顔はシラフの九蔵なら有り得ないような、力の抜けた無防備な表情筋である。
突然好きだと言われた澄央とズーズィは、目をぱちくりとさせて顔を見合わせた。
「……もしやクーにゃんって、素直になると割とカワイイ系?」
「……みたいスね。それに、下戸」
笑顔が下手くそで薄暗いジト目。不健康でヒョロ長く、姿勢が悪ければ不審者オーラが漂ってしまう。
そんな九蔵が子猫のように人懐こい。
端的に、一大事であった。
「九蔵、九蔵。飲みすぎは良くない。お水を飲もう? さぁ、口を開けてごらん?」
「んふ、ニューイも好きだぜ?」
「へっ……!?」
「ってか、今もうやべ。お前ちょう、かっこいー……へへ、好き。なんかさ、お前は、顔も中身もかっこいーなぁ……」
「あ、あり、ありがとう」
「わんこちゃん。ヤゲン軟骨、お食べ」
「うむ」
二人の気持ちなんて知らない九蔵は、ユルユルと笑いながら、ニューイにツマミを一口食べさせた。
九蔵を気にかけるニューイは水を差し出したものの、あっさり躱され逆に餌付けをされる。
「うまい?」
「ん、美味しいよ。九蔵が食べさせてくれたものはみんな舌がとろけそうだ」
「へへ……それ、なんも考えなくて、本気で言っちゃうとこがなー……お前のチャームポイント? だよなー……」
「さぁ、そろそろお水をだな」
「かっこいいニューイくん……俺に、たこわさ、あーんしてくんない?」
「もちろん」
果敢にチャレンジするが、やはり押しつけがましすぎないナチュラルなオネダリによって、さっくり従ってしまった。
ニューイは九蔵に逆らえないのだ。
惚れた弱み。そして普段から飼い主として躾られている子犬の性分だろう。
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