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番外編① たまに寝ぼけるキミが愛い(sideニューイ)

 ◆ツイッターのフォロワーさん感謝で長編ごとに書いたSS。ニューイ視点。甘コメ。  九蔵は寝起きがいい。  だけど、たまにとても寝ぼけている時がある。  私は悪魔なので人間のように定期的に眠らなければならないこともなく、気が向いた時に眠っておけばいいのでいつもスッキリ目覚める。  なのでいつも必ずキチンと起きる器用な九蔵が起きない時は、私がそーっと起こすのだ。 「九蔵、九蔵」 「……ぅん……まらいー……」 「九蔵。九蔵の好きなテレビ番組が始まってしまうよ。天気予報だよ」 「れんひよほー……」  そういう時、たいてい九蔵は寝ぼける。 「ん~……おゃふむぇ……」  そしてかなり──かわいい。  タオルケットを足と腕で抱きこむようにして丸くなり、舌ったらずなおやすみを言う九蔵に、私の頬はデレ~っと崩壊する。 「ふふ。アルバイトに行かねばならないのに、九蔵、眠るのかい? ふふ、ふふふ」 「……にぇむむ……」 (眠るがにぇむむになっている九蔵、かわいいのだ……!)  気分が上がりすぎてニョロリと伸びた尻尾が、私の背後でうねうねと軽快にうねった。  床を跳ねる尻尾。それでも九蔵は起きようとしない。  それだけ疲れているのかもしれないし、本当は私だって、好きなだけ眠らせてあげたいと思うのだよ。  そうじゃなくとも起こしたくなんかないぞ? だって九蔵が眠いのだ。こんなに愛らしい寝顔で眠たがるのだ。  起こすなんてとんでもない! 「天使のように愛らしいのにかわいそうである……!」 「……ふぁ……」  大真面目にそう思っている私は、なのにその九蔵のためには起こさねばならない現実に、ぐぬぬと拳を握って悔しがる。  すると九蔵は小さくあくびをし、私側にゴロリと転がってきた。  声を潜めているとはいえうるさかったのかもしれない。起こさねばならないのに、私はギクリと焦ってしまう。 「く、九蔵」 「……せぇ、にゅぅい……」  案の定、だ。  ふやけた言葉で責められ、私はしゅんと肩を丸くした。九蔵に叱られると、寝ぼけていたってしょげてしまうものだ。  九蔵にはいつだって「ニューイはいい子だな」と言われていたい。  どれだけ誤魔化そうと悪事を働いても、悪い子だと言われると途端にべそをかいて許しを請う。  これはどういう仕組みなのだろう?  真木茄 澄央は「躾中の子犬の気持ちスね」と言っていたが、私は子犬なのだろうか。子犬の耳はないのである。 「うむ……すまなかったのだ……」  そんなわけで、九蔵に叱られた私は九蔵の寝顔に向かって正座をして謝った。 「ん……いーこ……」 「! うむ、うむっ」  九蔵は寝ぼけているのに九蔵だった。  私のことをしっかり褒め、フラフラと手を伸ばして私の膝をなでたのだ。  褒めてもらうと嬉しいぞ。  九蔵の私なのだから、九蔵の私は素晴らしい私でなければならないだろう?  ハイグレードな悪魔になれると誇らしいのだ。ムフフ。これも〝躾中の子犬の気持ち〟なのだろうか。  ふむ……九蔵は子犬が好きなのかな。好きだといいな。好きでないなら、悪魔のことが好きだといいのである。 「九蔵は悪魔が好きかい?」 「……ぐー……」 「子犬が好きなのかい?」 「……すや……」 「私は九蔵が好きなのだが……」  すこぶる真剣に尋ねるが、返ってくるのは寝息のみ。  結果──九蔵はあわやアルバイトに遅刻寸前となり、私は朝ごはんを一緒に食べられずにショックのあまり床へめり込むことになるわけだが……。  今の私は、知らないことであった。 「実際どっちが好きなんスか?」 「知らん。が、どっちが好きでもニューイは子犬で悪魔なんだから、考える必要ないと思います。それより俺を叩き起こしてほしかったです」 「ニューイ、どんまい」  了

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