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◇ ◇ ◇
それからしばらくニューイと二人きりでグラスを傾け、パーティー会場の光景をタネに他愛のない話を語り合っていた時だ。
前触れなく無言で黒ウサ耳をヘニョーンと垂らしたニューイが、見るからに寂しそうな顔に変化してしまった。
「どした?」
「……悪魔王様にお呼び出しされてしまった……」
しょんもりと脱力して囁くニューイ。
その顔が、やっと彼女のために取った休みに上司から呼び出しを食らって出勤しなければならなくなった彼氏さながらで、九蔵は苦笑いした。
ニューイは「せっかく虐められぬよう、九蔵とはじっコぐらしをしているのに……」と大いに嘆く。
現場の女性スタッフにオススメされてはじっコぐらしの映画を見てから、ニューイははじっコぐらしがお気に入りだ。
語感がいいらしい。小さくて丸いのもポイントだそうだ。
「てか、俺たちはじっコしてんのに、悪魔王様はどうやってニューイを見つけたんだ? 話しかけられてもねーだろ?」
「悪魔王様のテレパシーは全ての悪魔に声を届かせられるのである。指定した悪魔以外には聞こえない声をね」
「はぁ〜……」
ニューイ曰く、悪魔王は全悪魔の親にあたると言う。
堕天使などを含まない全ての悪魔は、悪魔王に関連するなにかしらから自然に発生した。例えば足跡。例えばため息など。
悪魔は生まれたところに屋敷を与えられ、アカデミーにも通う。
そして悪魔に名を与えるのは悪魔王だ。
進化の過程で人類皆兄弟というレベルではなく、血脈的に悪魔類皆兄弟なのである。
「悪魔王様は役職の名前ではなく、悪魔王様だけの名前だぞ。自由奔放でずる賢く悪さばかりする悪魔を統制できるのは、悪魔王様だけなのだ。なんせ私たち全ての父上だからね」
「なるほどな」
自分の子どもたちだから直通のテレパシーが送れたというこか。
ニューイは上司に呼び出された部下ではなく、彼女とデート中に親から帰宅しろと言われた息子だった。
納得する九蔵だが、ニューイにとってはどっちにしろしょんもりとする案件だ。
九蔵の特製おにぎりが宿った両手で耳をモキュ、と握って、離れたくないと葛藤している。
「うぅ……出来の悪い私を呼び出すなんて、悪魔王様はどういうつもりなのだろう? いつぞや私に役職を与えただけでも困りものだったというのに、九蔵を残して会いに行かなければならないなんて、拷問だ……! 九蔵がアルバイトにも行かずそばにいるのに……! 九蔵がいるのに……!」
「はいよ。俺はここにいますとも」
九蔵はニューイの黒ウサ耳に手を伸ばし、ポンポンとなでてやった。
「王様に呼ばれたんならしかたねーよ。俺のことは気にしないで、行ってきな」
「でも、九蔵がここにいるのである……」
なでどもなでども、ニューイはしょげる。よく見ると短い尻尾がピコピコと動いているが、概ねしょげている。
しまいにはしがみついて離れようとしなくなり、どうしたものかと考えていると。
「むっ。むむ」
「今度はなんだ?」
「悪魔王様が、いつまで駄々をこねているのかと。そしてなんと、ぜひとも九蔵を連れてこいと……!」
「はい?」
どういうわけか、九蔵も謁見にご招待されてしまった。本当にどういうわけだ。
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