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◇ ◇ ◇
結局二人が持ち直すまで、十分ほどかかった。
小声だろうが聞こえてしまう巨漢なのにブツブツと管を巻く悪魔王には、全力で太鼓を叩く。嘘ではない。誇大広告と言ってほしい。
実際九蔵は物凄くゲームがうまいわけではなく、特別コントローラー捌きが得意なだけの男なのだ。
真面目に手先の器用さが要因である。
ああいう単純なステージは指の技術がものを言う。じっくり見て予習したステージなら攻撃パターンも覚えられるので必然だろう。
太鼓を連打した後そう説明して、悪魔王はどうにか持ち直した。
一時は「もう悪魔王なんてやめる」と言い始めてしまい、心臓がもげそうになった九蔵だ。勘弁してほしい。
……ちなみに、もう一つ理由がある。
実は、機械が苦手な悪魔王の基準での〝鬼畜級難易度〟は、九蔵的に〝元ネタよりかなり難しいけどまぁクリアできるかなレベル〟だった。申し訳ない。
本当はたぶん初見でもクリアできた。
申し訳ない。
(ゲーム大会とかに出てるようなガチ勢なら目ぇ瞑ってても暗記してクリアするだろうなってのも、言わないでおこう……)
胸に秘めながら、九蔵はニューイの口にセットしたチャックをジジーと外してやる。
ニューイはやっと話すことが解禁されて、ここぞとばかりにひっついてきた。
「うぅ……お口にチャックなんて要らないのである。なのに九蔵に叱られると私のお口にはチャックができるのだ。素直な私の体め……ぐすん。愛しているよ、九蔵~……」
「はい。後で何倍かにしてお返しするから今はノーコメントで」
「九蔵~……っ」
よほど寂しかったらしい。
ヤギマスクでもお構いなしにスリスリと頬ずりするニューイに、九蔵は顔色が見えなくてよかったと思った。
やはりヤギマスク。
すっぴんより落ち着く。
そんな九蔵たちをしげしげと見つめる持ち直した悪魔王は、ひじ掛けに肘をついて興味深そうに息を吐いた。
あまり見ないでほしい。
「よくもまあ人間ばかり追いかける悪魔であるな、お主は。二百年ぶりにクリスマスパーティーに出席したくせに人間にしがみついておるだけではないか」
「ん? もうそんなに経っていたかい? 二百年は短いのだね」
「当然だろう。以前悪魔の世界に紛れ込んできたそこの人間とて多少変化しておるわ。髪を切ったのか?」
「悪魔王様、九蔵とイチルは別人である」
「……? 同じ魂に見えるが」
「それ以外は別人なのだ。うっかり本契約を忘れてしまってだな……イチルは九蔵に生まれ変わったのだが、イチルと九蔵は別人である。別人の九蔵に恋をして別人の九蔵を愛しているのだよ」
「うむ。よくわからん」
「ははは。悪魔王様も人間に恋をするとわかるさ」
「何千年かかるか知れぬ。が、お主は変わり者だからな。我はお主のそういう性質は嫌いではない。……同じ魂にしか見えんぞ」
九蔵に抱き着いたままニコニコと誇らしげに九蔵を見せつけるニューイに、悪魔王は首を傾げて九蔵を眺める。
そんな悪魔王が昔のニューイのようでかわいいと思い、九蔵は「ふっ」と吹きだしてしまった。
「? 愉快か、二代目人間」
「悪魔王様、九蔵なのだ。九蔵は九蔵と呼んでほしい」
「米粒の名を呼べと……クゾウ。お主も奇怪な悪魔に目をつけられたものだ。日々気が休まらぬだろうな」
「はは……まあ、そうですね。けれどそればかりでもありません」
「ほう?」
ニューイに正され九蔵を名前で呼ぶ悪魔王に心底同情に満ちた声音で言われ苦笑いを返すと、悪魔王は興味深そうに続きを促した。
いや、別に特別なことでもないのだが。
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