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 確かに人間と悪魔は違う生き物で常識もなにもかも理屈から別の存在だ。  それは当然、気は休まらない。お互い悪気はなく、お互いの有り様があった。  では気疲れするばかりかと言うと、そうでもない。  ニューイがいると気が休まらないが、ニューイがいるから気が休まるところもある。  人も悪魔もそこは同じだろう。  好きな相手だからなんのかんのと気疲れしても共にいるし、安らぐ時もある。  恋人関係なんてそんなものだ。  たぶん。複雑じゃない。 「クッ、クハハッ、人も悪魔も同じか」  九蔵は思った通りに言ったのだが、悪魔王は目のある位置に目玉を二つギョロリと作り出し、耳まで裂けた口をニタァ、と吊り上げた。  初めて見た笑顔だが夢に出そうだ。  内心でヒィと悲鳴をあげる。 「それを聞いたのはニューイ以外で初めてである。我に散々怯えていたくせに、悪魔も人間も関係ないと申すとはな」 「まぁ、簡単なことではないとわかっています。恋人として寄り添うならという場合だけの話ですよ」 「クックック。ならばお主はニューイなら人間と同じく寄り添えあえるだろうと感じておることになるが……構わぬのか? お主にしがみついておるその悪魔は、一時北西地を統べる王であったのだぞ?」 「んっ……!?」  聞いてないぞ、そんなこと。  笑い話として告げられた言葉に、九蔵はバッと自分にしがみついているニューイを振り返った。  ニューイはしょーんと眉を垂らしている。どうしてそんな顔をするんだ。もっと誇っていいんじゃないか。 「ニューイ、王様だったのか?」 「臨時である……悪魔王様がやれと言うと逆らえないのだよ。私はポンコツで上に立つことがとても苦手だと言うのに、三百年も王様をさせられた……」 「さっ、……お前さん、おいくつですかね」 「うむむ。千歳はゆうに超えているぞ」 「ミレニアム……!?」  そんなことより黒歴史なので九蔵には知られたくなかった、としょげるニューイだが、九蔵は開いた口が塞がらない。  王子系イケメンのニューイは王様だったのだ。しかもそこらの年の差カップルなんて目じゃないくらい年上だった。  ちなみに悪魔王はプルプルと震えて驚愕する九蔵とテンションがダダ下がりのニューイを眺めて、ニヤニヤと笑っている。笑い事じゃない。 「お前それ、なんかこう、聖書とかに名前載っててもおかしくないレベルだろ? ニューイって聞いたことねぇぞ」 「聖書の時代に人間の世界に流出した情報はその当時のものだ。悪魔の世界も変化する」 「ならなんでお前虐められてんだ? 元王様とかもっと敬われてるはずなんじゃ……」 「それはもちろん、全力で正体を隠していたからね。自由な悪魔を統治するのは大変なのだ。統治者が私だとバレたらお屋敷に火をつけられかねない。引きこもり癖はそこからきているぞ」 「マジでか」 「うむ。仕事はきちんとしていたから、見回りの時にイチルを発見したというのもある。当然その後すぐに王様をやめたとも」 「マジでか~……っ」  恋人の新情報を得て、九蔵は両手でヤギマスクを抱えて脱力した。  悪魔王曰く「悪魔王である我の下の位が王だ。王は数人いるが、我の次に素質の強い者たちだ」とのこと。ナンバーツーだ。 「破壊と再生を性質に持って生まれた悪魔が弱いわけなかろう」 「性格が詐欺だと思います……」 「そしてニューイ。お主を呼び出したのは他でもない、それに関係することである」 「ぅああ……っだから王様になんてなりたくないのであるぅ……っ」  ようやく話の本筋が見えたものの、余計な新情報も増えた濃密な時間であった。

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