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  ◇ ◇ ◇  それからニューイと悪魔王が話を始めて、まだほんの十数分後のことだ。 (……ん?)  巨大テーブルから降ろされた食事と飲み物を振る舞われながら少し距離を取っていた九蔵は、ふと、奇妙な物体を見つけた。  バスケットボールほどもある白くフワフワした塊が、天幕の切れ目で弾んでいる。  入ってきたほうの切れ目とは逆の方向だ。壁があるところを見るに、悪魔城の奥へ続くらしい。  白いフワフワ、略して白フワは九蔵に見つけてもらったことがわかったのか、一層激しくバウンドする。  九蔵は白フワをじっと見つめた後、数メートル離れているニューイたちを伺った。  巨大な悪魔王と話すために翼を生やして宙に浮かんでいるニューイは、こちらに気づいていない。  世界中が見える悪魔王も、白フワに対してノーコメントだ。小さすぎて気づいてないだけかもしれないが。  白フワに視線を戻す。  ボインボインと跳ねている。  二人に視線を向ける。  聞かないように離れているからわからないが、小難しい話をしているようだ。ニューイの耳がしょげている。  なるほど。わかった。 「…………」 「!?」  九蔵は白フワを見なかったことにして、おばけロブスターのハサミ肉を咀嚼した。  白フワが驚愕している気配を感じるが、九蔵は振り向こうともしない。  いくら不審だろうが黙って出ていくのは無礼だろう。しかし声をかけて邪魔をするのも良くない状況だ。  なら、見なかったことにしよう。  自分の顔の二倍はあるハサミ肉を口いっぱいに頬張り、もすもすと味わう。ニューイにもっと太れと盛られた。 「これでも最近体重増えたんだけどよ……」 「っ! っ!」 「てか俺、少食なんだよな……食いもんにあんま興味ねぇしな……」 「っ! っ!」 「つまり、ゲーム控えて筋トレしたほうがいいんですよね……わかってんだけど、ニューイの前で筋トレすんの恥ずかしいってか……でもジム行くとかは嫌だしな……」  なんのかんのと言いながらも、ハサミ肉はきちんと食べ続ける九蔵。シャイな恋するヒロイン脳。  必死にアピールする白フワの存在など、もちろんアウト・オブ・眼中だ。  個々残 九蔵。  恋愛には夢を見ているくせに、それ以外はシビアなガードの硬い男である。  そんなこんなでしばらく無視していると、ついに白フワがコロコロと転がり、九蔵の足元までやってきた。  九蔵は無視して歩き、ロブスターを食べ終えた皿を普通サイズのテーブルへ置く。  コロコロと着いてくる白フワ。  それでも無視をして茶柱が踊っている緑茶を飲んでいると、ついに白フワは九蔵の体を伝って登ってきた。  当然無視する。  意外と重くて若干邪魔だ。  ズズー、と湯呑からお茶をすすり、ホ、と和みを感じる九蔵。歪みない九蔵。  ニョキ、と白フワからウサギの耳が生えようと動じない。  白フワは九蔵の耳元にしがみつき、モフモフとわななく。 「俺っちの時計を探してくれたら、なんでも欲しいものをあげるさ……」 「特にないです」 「……。自分でも気づいていない一番欲しいものをあげるんさ」 「気づいてないなら困りません」 「……。黒ウサギ好みの美ボディ細マッチョにしてあげるさぁ?」 「いや、あいつに好かれる努力惜しむとかオタク的には損してるだろ。推しのために時間と労力と金捧げてる自分の輝きも推しからの贈り物だから。推しのために悩むところから推し活です。着るだけスリムスーツは要らん。結果にコミットしてこそオタク。俺の持論だけど」 「そこだけペラペラ語るさぁ……!」  誑かそうとする白フワには目もくれず淡々と告げる九蔵に、小声で誘惑していた白フワが悔し気に呻いた。  本心なのだから仕方ない。  そんな九蔵を誘い出すことを諦めたのか、白フワは最後にボソリと呟いてから、ピョンコと飛び降りる。 「……俺っちの時計探してくれないなら、俺っちが預かってる黒ウサギの宝物、壊しちゃうんさ」 「は?」  九蔵はバッ! と勢いよく振り向くいた。しかし時すでに遅し。  白フワはすでにボインボインと跳ね、天幕の切れ目から転がり出て行くところだ。呼び止めるには、追いかけるしかない。

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