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◇ ◇ ◇
ビルティと別れた九蔵は、ビルティに教えてもらった通り裏の森をサクサクと進み、それらしい沼地にたどり着いた。
毒々しい紫の沼地だ。
ボコッ、と浮き上がる謎の気泡。
周囲の木々が青々と茂っているのが不思議なくらいである。青々と、というのは、正しく青いのだが。
「青い葉っぱの木に、白い葉っぱの木……クリスマスツリー風に飾られてんのはなんでですかね……空は紫色ですしね……」
九蔵の気分もブルー真っ盛り。
げんなりと疲労しつつも、周囲を見回して白ウサギの隠れているらしい洞窟を探す。
沼のほとりにチョコレート色の岩場があり、そこを覗くと奥深い洞窟があった。
壁には色とりどりの宝石の欠片が埋め込まれている。こんな状況でなければ、見惚れるくらい美しい。
(っと、甘いものは問題ねぇな……白モフはバスケットボールくらいだったし、動きやすいように身軽な装備でオーケイ)
備えあれば憂いなし、だ。
しっかり準備の確認をしてから、九蔵は油断もなく身構えながら洞窟の中を進む。
洞窟の中は外より涼しかった。
虫一匹いない洞窟内だが、光る宝石に照らされて月の明るい夜くらいには周囲がよく見える。
「──……ォォ」
すると入ってそれほど経たずに微かな声が聞こえて、九蔵は足を止めた。
老人のように嗄れた声だ。
乾いたそれがなんと言っているのかわからないが、おそらく声の聞こえる方向に白ウサギがいるのだろう。
(あの白フワ、見た目に似合わず嗄れ声だったしな。うん。間違いねぇと思う)
自分の記憶と照合し、九蔵は声の聞こえる方向へノシノシと進んだ。
ピチョン、と沼と同じ色の雫が時折天井から滴る。
それを避けつつ進むにつれて道幅が狭くなった。通り抜けるのに苦労する有り様だ。
岩肌に擦ってアリスちゃんのエプロンドレスが汚れてしまい、九蔵は気持ちしょげつつ前に進む。すまん、ニューイ。
さらに道が細くなるとヤギマスクの角が邪魔になったので、マスクは帰り道に置いておくことにした。後で拾って帰ろう。
そうして久しぶりにすっぴんで足を進め続けると、声はついに巨人の腹の音かと言うほど大きく聞こえるようになった。
「ウォォ〜ン……ウォォ〜ン……」
「……っ……」
これは、泣き声だ。
すすり泣く声だ。
嗄れ声のせいで唸っているようにしか聞こえないが、白ウサギは確かに泣いている。
九蔵は時計を見つけて持ってきてやれなかったことにズキ、と胸を痛めながら、狭い道をどうにか通り抜ける。
「っとと、んぶっ」
その勢いで前のめりにたたらを踏み、なにやら開けた場所でモフモフの塊にボスッ、と顔から突っ込んでしまった。
おかげで怪我をしなくて済んだが、これはなんだろう。白モフにしては大きすぎる。五メートルはあるのではなかろうか。
「ウォ? 誰だぁ〜?」
「へっ……?」
考えているうち、不意に降ってきた声とズズズ、と動き始めたモフモフの塊を見上げ──九蔵はビキッ、と硬直した。
血の気がサ、と引く。
九蔵がぶつかったのは、九蔵三人分くらいのまるまると太った超重量級のボディだ。
そして九蔵を見下ろしているのは、やたら長い手足を器用に折りたたみチャームポイントの長い耳を持ち上げる、真っ白なウサギのモンスター。
確かに白ウサギだ。
確かに白ウサギだが。
「俺っちのお尻にぶつかったのはお前かァァァ? アリスゥゥゥ」
「間違えました。出直してきますッ!」
(ここにきてウサギ違いとか嘘だと言ってよバニィ──!)
洞窟内の響く枯れたハスキーボイスに威圧され、九蔵は素早くクルリと踵を返し、猛ダッシュで出口へ駆け出した。
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