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黒ウサ耳を揺らすイケメンが、機嫌良くこちらを見ている。
ニューイはまだイっていない。
それに恋人になってから一度入れたスイッチが切れた試しがなかったはずなのに、なぜ終わりにするのか。
ここのところ密かに体の厚みを増やそうとふんわり心がけている九蔵の体は、骨と皮ばかりの頃より抱き心地が増していた。
官能的な肉感を帯びて艶めかしくシーツの海に沈みながら、ピク、ピク、と微かな蠢動を止めない身体。
ニューイ曰く、かなりイイらしい。
現に中のモノは熱く昂っている。やめる理由が見当たらない。
「九蔵の性の欲望は全て平らげたよ。私は満腹である。九蔵もその気が失せただろう?」
「それはお前がっ、の、残してくんねぇから……っ時間……一時間経ったのか……?」
「まだ三十分も経っていないぞ?」
「じゃあ……時間あるなら、もっとシてもいいっつか、んっ……」
「いーや。私なりに勘弁するタイミングを事前に考えたのだ。普段の姑息な手は封印して、きちんと素直に九蔵を満足させる」
「っふ、なんで俺だけ、っあ……っ」
「意地悪をしているわけじゃないぞ? なんせ私は、百年だってキミを抱けるのだよ。だけどそれじゃあ困るだろう?」
「あ、っ……んっ……」
だからヤメ時だ、と笑いながらもユルユルとした律動をやめないニューイの元へ、両手が帰っていった。
おかげで胸元への刺激が止み、感じる快感が更に減る。……イジワル黒ウサギめ。
「とはいえ、私は九蔵の意見が最優先だからね。九蔵の頼みはなんでも聞く、九蔵だけのサンタクロースなのだ」
「ニュ、ニューイ……」
「フフフ。そうだなぁ……確か〝私の好きなことをしてもいい〟と、そんな誘い文句でベッドに上がり服を脱いだ気がするぞ? 悪魔との約束は、契約なのだよ」
「っ……!」
「クリスマス・イブに浮かれた頭がキミだけとは限らず、少し、欲を表に出す悪魔がいたってしかたがないね……九蔵はどう思う?」
「や、でも……っん、……っ」
(くっ……この……っあんなやり方でイかせた上に時間に余裕残して間違いなく続きを欲しがれる状況で聞くとか、わざとだろ……っ)
ニューイの悪魔らしい部分を知った九蔵はズク、と胸を疼かせた。
性欲を全て食べられて満足してしまうと体はその気になりにくくなると言うのに、九蔵の心はニューイとのクリスマス・イブをめいっぱい感じたい。
「まぁ、性欲が欠片も残っていない健全な今の九蔵がそれでも私とセックスがしたくてたまらないなら、ずいぶん淫らだと思うが」
「うっ……」
さらに言いにくいよう追い打ちをかけられ、モジ、と尻をもじつかせた。
ゆっくりじっくり、出入りを繰り返すモノが普段より遠く感じる。
それでもニューイとセックスがしたい。あぁ、そうだ。全然足りない。欲望の外側で興奮している。
しかし今のニューイには、いつものような遠回しなオネダリは効かないようだ。
「……俺は、もっと、シたいです」
「かわいい。かわいい九蔵。私もシたいぞ。だけどキミはもう欲がないじゃないか」
「だっ……だからですね……性欲なくてもシたい、から……ニューイが俺を、その気にさせてください……って」
「ふふ、いいね、ふふふ。グッとくる。キミの呼吸は全て大好きだ。でもあと一歩……賢い九蔵は、方法がわかっているだろう?」
嬉しげなニューイはニコ、と含みのある笑みを浮かべて、九蔵を誘った。
悪魔能力を使えば九蔵に好きなことを言わせるくらいわけないくせに、ニューイはわざわざ九蔵にいやらしいオネダリを進んで言わせたいらしい。
確実に言うまで続きはなしだろう。
行為中のニューイがどれほど我慢強いか、九蔵はよーく知っている。
快楽責めがお好きな遅漏の紳士だ。
「っ……た、魂で感じさせ、てっ……」
「んふ、ん?」
「お前じゃねぇと満足できなくていいから、そうして、俺と……、っ俺をお前に、堕としてくれ……っ」
言いながらぎゅうっと中のニューイを締めつけ、九蔵は全身くまなく真っ赤に紅潮してねだる。
途端、ニューイがデレ〜っと、それはそれは嬉しそうに破顔した。
くそう。意地悪悪魔め。
こちらは発火して死にそうだ。
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