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「こちらは……」
「美味しい卵系お取り寄せグルメのカタログギフトでございます。お好きなものを三つ選びご注文くださいませ」
「この国の結婚式の引き出物で有名な、あのカタログギフトでございますね」
「はい。あのカタログギフトでございます」
「なるほど」
冠婚葬祭で大人気。
あのカタログギフトさん。
ニューイはパチンと指を鳴らし、カタログを箱の中に戻して包装した。
ハズレのない贈り物にしようとしてバグった九蔵は、ハムの詰め合わせと油の詰め合わせのどちらがいいか考えたのだ。
だがやはりどちらと選べないので、もう自分で選んでもらおうとカタログギフトをチョイスしたというわけである。
ちゃんと理由があった。
お歳暮でも引き出物でもない。
「ちなみにですが、なぜニューイさんは金の延べ棒をチョイスなさって……」
「あぁ、それは土地を……」
「土地」
「土地を贈ろうと思ったのですが、土地は管理が大変かと思いまして……純金かな、と……」
「純金」
「ええ。札束はお叱りでしょう?」
「それはもちろん」
「ですから、消去法で純金」
「消去法で純金」
ニューイにも理由があった。
かなり頭の痛い理由だ。
これまで悪魔のニューイが関わってきた人間は、イチル以外、黒魔術やらなんやらで呼び出した人間パターンだったらしい。
彼らの望むものは地位や名誉、金、復讐、恋人、奴隷、その他もろもろ。
つまり濃いめの欲望由来が多かったので、人間に与えると喜ぶものの基準がアホになっているのだろう。
本人に悪気がないのでなにも言えず、九蔵は〝来年までにニューイへ一般的なプレゼントチョイス観を叩き込む〟と決める。
「……。あとついでに、呼び出した人間が恋人を求めたパターンの対応を詳しく」
「え? ええと、それは私が本人の希望と参考資料を元に理想の恋人を演じます」
「なるほど」
「九蔵? 九蔵もしかしてヤキモチを」
そうしてなんやかんやで初めての恋人とのクリスマスプレゼント交換会を終えた時、二人のスマホがほぼ同時に着信を告げた。
スマホを開くと、相手は澄央だ。
ということは本日は休みで他に友人のいないニューイの相手は、ズーズィだろう。
朝早くから電話をかけてくるだなんてなにかあったのだろうか。
あまり気にせず着信を取る。
「もしもし」
『メリクリス、ココさん』
「メリークリスマス、ナス」
『んで置き配にココさん名義でハムの詰め合わせが届いたんスけど、これお歳暮スか? それともクリスマスプレゼントスか?』
「あ。あ、ぁー……それは、はい」
そうです。
私のクリスマスプレゼントです。
九蔵は頭の中で続きを言った。
けっしてお歳暮ではない。食べるのが大好きな澄央には間違いない贈り物だと思って送っている。けっしてお歳暮ではないのだ。
まあ悩みすぎてバカになった結果ではあるが、のし紙はつけなかったぞ。
『どっちでもいっス。ご飯のお供に最適ス。ありがとス。でも料理すんのがめんどくさいス。ハムステーキ食いたい』
「切って焼くだけですよ、ナスくん」
『あといつの間にかキッチンに米俵が置いてあったんスけど、たぶんニューイスね。悪魔の通販って直通なんスか。便利ス』
「うん。わかったからとりあえずその米炊いて食って待ってな」
『クリスマスにハム米パ。至福。もっかいケーキとチキン食いましょ』
通話の向こうでグゥーと腹のムシを鳴かせる澄央に、九蔵は苦笑いした。
おおかた寝起きで郵便を確認し、ハムが届いていて食欲が爆裂したのだと思う。
今すぐ食べたいが料理をしたくないので、九蔵を呼び出したわけだ。
昨日あれだけ食べていたのに一晩で消化しきるなんて、ズーズィの持たせた薬と澄央の胃袋の相性が良すぎる。
『ギャッハッハッハッハ〜ッ! これマァジで有り得ね〜ッ!』
腹ぺこを訴える澄央を宥めていると、スマホを透過するほどの爆笑が、ニューイのスマホから響いた。
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